第4話(義理の妹編)仕方ないですね

 いつもの演劇部部室。


「じゃあ先輩、今日も始めますよ」

「今日は先輩のリクエスト通りの設定なんですから、上手くやってくださいね?」


「私は完璧です。昨晩、シュミレーションしてますから」

「……なんでそんなにやる気があるのか? はい? 部活だからに決まってるじゃないですか」

「先輩は危機感ってものがないんです。私たち以外部員がいないんだから、私たちが頑張らなきゃいけないのに」


 はあ、とこれみよがしに溜息を吐く亜矢奈。


「私という後輩がいることに、先輩はもっと感謝すべきです」

「じゃあ、今日もいきますよ」


 パン! と亜矢奈が手を叩く。





「お兄ちゃん」

「ねえ、お兄ちゃんってば。こっち見て、もっとかまって!」


 いつもより高めの、甘えるような声。


「勉強がある? それ、1時間前も言ってた!」

「私と勉強、どっちが大事なの!?」

「お兄ちゃんの馬鹿!」


 背中何度も叩かれる。


「……やっとこっち向いた」


 亜矢奈が満足そうな声で笑う。


「ごめん? 謝るならもっとかまって。私たち、やっと恋人同士になれたのに」

「……だからこそ勉強してる? どういうこと?」

「……しっかりした大人になって、私とのことをお母さんたちに認めてほしいから?」


「……なにそれ」


 嬉しそうな、それでいて恥ずかしがっている声。


「そんなに先のことまで考えてくれてるの?」

「お兄ちゃんだから、って……こんな時にお兄ちゃんぶるのやめてよ」

「……でも、ありがと。大好き」


 ぎゅ、と亜矢奈に抱きつかれる。

 耳元に息を感じる。


「早く外でも、堂々と恋人らしく過ごしたいな」


 耳元で囁かれ、両手で頬を包まれる。


「ね、お兄ちゃん」

「……今度はお兄ちゃんから抱っこ、して?」


 ねえ、と甘えるように言われ、ゆっくりと亜矢奈を抱き締める。


「ふふ……」

「私、お兄ちゃんにこうして抱っこされるのが、一番好き」

「ずーっと、こうしてたいな」





「いつまで私のこと抱きしめてるつもりなんですか?」


 急に冷めたような声。慌てて亜矢奈を離すと、亜矢奈がパン、と雑に手を叩く。


「ていうか先輩、手汗やば過ぎますし」

「しかもなんか、鼻息荒くなかったですか?」


 慌てて亜矢奈を離し、距離が遠くなる。


「先輩もしかして、この機会に女の子といちゃつけてラッキーとか思ってません?」

「これ、演技の練習ですよ? 分かってます?」

「これだからモテない男は……」


 溜息を吐く亜矢奈。


「仕方ないですね」

「先輩があまりの欲求不満から嫌がる女の子に手を出して訴えられでもしたら、演劇部の問題ですし」

「……そんなことしない? 私のこと、あんなに抱きしめておいて?」


「ごめんって……まったく、私が優しくなかったら怒ってますからね?」

「仕方ないので、ちょっとくらいなら先輩の欲に付き合ってあげます」


 亜矢奈に手を握られる。


「明日のテーマは、歳の差カップルです。私が、近所に住む大学生のお姉さんですからね」

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