第15話高校生活三日目

「──教科書の五ページを開いてくれ。見ての通り先程教えたところの例題が出されているのが分かるか?授業も残り十分を切ったから残り時間はこれを解いてくれ!単項式か多項式か答えるだけだから簡単だと思う。まあ、解けなかった分は宿題でいい」



「「「「「はい!」」」」」




 先生が言った事に対して分かったと了承する生徒の声が重なる。今は見ての通り数学の授業中というわけだ。残り時間が少ないから新しいところを教えたらキリが悪くなると先生は考えたんだろうな。だからさっきまで習っていた事が分かっているかという意味も込めて残り時間は問題を解いてくれと言ったんだろう。

 

 さて…俺も問題をパパーっと解いてしまうか。ええと…なになに…3エックスはどっちか答えよ…か。単項式だな。次は──





♢♢♢



「ぅぅ…全く分からなかったよぅ~」


 授業が終わり休み時間の事だ。右隣の席の凛がそうぼやくように言ってるのが聞こえた。


「凛。さっき習ったばっかりだろ?」


「そ、それは…そうなんだけど…なんだか数学って紛らわしくて苦手なんだもん…豊ちゃんは終わったの?」


「そりゃあな」


 俺は人生二度目だし、高校でこうして勉強を習うのも二回目だ。そこら辺はチートみたいで凛には悪いけども…ただ一回目の人生でもちゃんと勉強はしていたし、苦手な科目なんてなかったぞ?


「凛ちゃん。それ豊和君には愚問だと思うわよ?豊和君はテストは勿論、ここの入試も全教科満点だしね…」


 左隣の席の優花が俺と凛の会話にそう言いながら混ざってくる。混ざってくるのは一向に構わないのだが…優花よ?どこで俺のそういう個人情報を仕入れたんだ?テストの点数を俺は一回も教えたなんて事はないよな!?


「ええーっ!?そうなのっ!?」


「なんで幼馴染の凛ちゃんがその事知らないのよ」


 いやいや…聞かないと分からないのが普通だろ?テスト結果が張り出されてるわけじゃないしな。幼馴染だからって分からんだろ?


「だ、だって…勉強はあんまり好きじゃないし…そういえば優花ちゃんは解けたの?」


「あっ!お姉ちゃんも解けている筈ですよ☆の為に毎日毎日自分磨きを磨きに磨きあげていますからね☆」


 前の席の愛がこちらへと席を向け変えてそう口にする。誰かさん?ああ、悠介さんか。悠介さんそういうのに厳しそうだからなぁ。


「ちょっと愛っ!?」


「大丈夫ですよお姉ちゃん♪ニブチンさんはいつまでたってもニブチンさんなのでっ☆」


「…ニブチン?」


 誰の事だ?


「…そうみたいね」


「だから私みたいに押せ押せアタック☆しないといつまでも伝わりませんよ?」


「…分かってるわよ」


「そ、そうなんだねぇ~ えっ?えっ?と、いう事は優花ちゃんも豊ちゃん側なの!?」


 豊ちゃん側ってなんだよ…?新しい言葉作るんじゃないよ、凛は…。


「お姉ちゃんは豊和様と並んで全教科満点ですよ?」


「ふわぁぁぁ~~~ 凄っ…」


「べ、別に…凄くはないわよ?そ、それだけ勉強もしてるし…」


「ですね☆お姉ちゃんは夜の体育の実技もそりゃ~あ~もう~完璧に念入りにしてるようですしね☆」


「んなっ!?な、何を言っ…あ、愛もそれくらいするでしょっ!?」


「してますけど何か?それは普通では?」


「くっ…愛に口で勝てる気がしないわ…」


 さっきから何を二人は言い合ってんだか…。


「ちなみにですが私はミスがあったので満点は逃しておりますが、それでも3~5番目には入っている筈ですよ?」


「うぅ…愛ちゃんも頭いいんだね…」


「わたくしは豊和様の為に努力してますからね!」


「努力は自分の為でいいからな?」 


「イヤです☆」


 全く…愛にも困ったもんだな…。まあ、懐かれて悪い気はしないんだけどな…。たぶんあの時の事を恩に感じてるだけだろうしな。


「豊ちゃん…」


「んっ?」


「そんなわけで勉強教えてもらってもいいかな?」


「ああ。構わないけど…「お待ちをっ!」…どうしたんだ愛?」


「凛ちゃん…?」


「な、なにかな愛ちゃん…?そ、そんな怖い顔をして…」


「わたくしの記憶が確かなら…凛ちゃんも頭は悪くありませんよね?」


「…えっ?」


「そういえば…そうよね…今まで勉強嫌いとか聞いた事なかったし…」


「そ、そんな事ないよ…?わ、分からないところが多くて…」


 目が泳いでるぞ…凛?


「凛ちゃん?」


「さ、さっきのところが分からないのは本当だから!」


「なら、私達が教えてあげるわね?それで詳しくそれはもう詳しく何を考えてたのか聞かせてくれる?」


「私もお姉ちゃんと全くの同意見です☆」


「あ、はい…」



 とりあえず優花と愛が凛には勉強教えてくれるみたいだし…凛の方は心配しなくていいか。休み時間が終わるまでワイワイ言い合う三人を傍目に俺は別の事に思考を傾けていた。



 心配いらないっていえばもう初夏日和の心配はしなくても大丈夫だよな?家族仲良く旅行に行って楽しんでるらしいし…。俺はクラスで唯一の空席を見ながらそう自分で自分に確認しながら思い返してみる。初夏日和のイベントというかエロシーンの相手は一人だけ。この間捕まったチャラい男だけだった。ゲームではずっとあの男に監禁されて孕んでも尚犯され続けるのが初夏日和だった。

 

 だから…あの男が捕まったから…いなくなったからもう初夏日和は大丈夫だよな?シナリオが変わったからといって変な風にはならないよな?物語の強制力とかいう言葉を聞くけど冗談じゃないからな?




 まあ、当然この問いの答えは帰って来る事はない…。





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