第14話寝惚けてしまい

「ほらっ♪豊和君♡起きて…?」



 ──なんか声が聞こえる気がする。うっすら目を開けると…そこには神楽坂優花がいた。腰迄ある長いストレートのラベンダーピンクの髪。その髪が光のせいなのか、それとも艶があるからなのかは残念ながら俺には分からないんだけどとにかく輝いて美しく見えるんだ…。流石はメインヒロインだ。


『んっ?メインヒロイン…?俺は今…ゲームをプレイしてたんだっけっ…?』


 この時の言い訳をさせてもらえるのならゲームをプレイしていると思い込んでいたんです。どんなゲームをしていたのよ!と、ツッコまれるとそれはそれで答えられませんが…。



『俺は今…神楽坂優花のシナリオをプレイしてたんだっけ?駄目だ…なんだか思考が働かない…でも…神楽坂優花に向かって手を伸ばせば触れられそうな気がするんだよな…』



 優花に向かってゆっくりと手を伸ばしていく…。


「もう…なに?もしかして寝惚けてるの?」



 俺の伸ばした手に優花は呆れるようにそう言いながらも、自身の手をその手に重ね合わせてきた。自然と指が絡み合っていく。それは端から見ると恋人同士がニギニギとお互いの手の感触やその温もりを確かめあっているかのようだ。俺は咄嗟にもう片方の手も伸ばし優花を自身に向けて引き寄せた──



「─ちょっ!?」



 ──ぽすん…と、優花の重みを体全体で感じる。胸に感じるのは小ぶりながらも柔らかいものが形を変えて押し潰されいる感触。顔に感じるのは頬と頬が触れ合いいつまでもスリスリとしたくなる感触。鼻腔を擽るのは花の甘い香りだろうか。それともシャンプーの匂いだろうか…。とにかくいつまでも嗅いでいたい良い匂いがする…。   


「と、豊和君!?近い近い近いからっ!?頬ずりしちゃららめぇっ!?」


 感じる事の全てを逃したくてなくて優花の背に手を回す。そして抱き枕を抱えるみたいにグッと両手で抱き締めるとなんだか妙に温かくて柔らかくてとても心地がいいんだ…。


「これ…凄く落ち着く…」


「…ふぇっ!?」


 なんだか…素っ頓狂な声が耳元から聞こえた気がするが気の所為だろう…。それにしても最近のゲームは香りまで体験出来たっけ…?このゲームVRだったけっ?


「すんすん…ほんと…いい匂い…」


「ぴゃあっ!??そ、そんにゃに…か、嗅がにゃいでっ!?」


「…優花」  


「んにゃあ!?と、豊和君!?当たってる当たってるにょ!?硬いのがあたってるから!?」


「…かぷっ…」


「んんっ~~~ く、首元に噛みついちゃぁらめぇ…あ、跡になっちゃうよ…」


「ちゅう…ちゅう…」


「吸うのもらめなのぉぉ~ んっ…」



 そのまま俺の意識は遠くなっていき──


“──ガチャッ!”


「お兄ちゃ~ん♪愛しの妹が起こしに…って、何やってんの!?優花さんっ!?」


「ふぁっ!?め、芽依めいちゃんなのっ!?べべべべべ、別に何もやってないわよ!?そ、それより助けて!?」


「お、お兄ちゃんから離れてよっ!優花さん!!」


「わ、私ぃ~~!?私じゃないの!?わ、私がしたくてしてるんじゃぁ…」


「お兄ちゃんはそんな事しないもん!」


「と、豊和君がっ!ね、寝惚けてるみたいで…あっ…ばっ!?そこは…おっ…んっ」


「んなっ!?そんなやらしい声をあげるなんてっ!?」 


「んっ…あっ…これは…違うのっ…豊和君が…んんっ~~~」


「とにかく離れてっ!」


「だ、だから!私じゃなくて…」


 なんだっ!?なんだなんだ?物凄くうるさくて騒がしくて眠れないんだがっ!?



「…何の…騒ぎ…?」


「あ、あんたはっ…今頃っ…と、とにかく離しなさいよ!?豊和君のせいで濡れちゃって下着を替えに行かないといけなくなっちゃったんだからね!」





♢♢♢



 目が覚めるとビックリしたわ…。優花が隙間がないほど密着した状態で抱きついてモジモジいるんだから…。話を聞いていくうちにそれは俺が寝惚けていたみたいでそうなったらしいんだけどな。まあ、優花がそんな事を俺にする訳はないか…。はははっ…本当悪い。



 たぶんだけど昨日は高校入学二日目にして早くも高校を早退して、色々としてたもんだから思いの外疲れが溜まってたのかも知れない。


 とにかく完全に目が覚めてしまった俺は起き上がるの顔を洗いに洗面所へ向かう。それから食卓へ。食卓には家族みんながすでに勢揃いしている。今日は優花も居ていつもの席に着いている。俺は優花の隣の席に着いてから先程の事を改めて謝る事に…。


「さっきは悪かったな優花。どうも物凄く寝惚けていたみたいで…」


「ほ、本当よっ!?び、ビックリしたんだからね?」


「…絶対に優花さんは役得だったと思ってるよ…」


「しょ、しょんな事思わないわよっ!?」


「…どうだか」


「芽依?優花はそんな事なんて思わないぞ?逆に勝手に触れるんじゃないって感じに思ってる筈だぞ?」


 芽依は優花に対してちょっと辛辣な所があるのが困ったものだ。困った事にちょっとだけブラコンの気があるみたいなんだよな…。まあ、世界一可愛い妹なので俺も邪険にはしないんだけどな。


「芽依は優花ちゃんにおかしな事を言わない様にね?愛ちゃんと同じ態度をとりなさい?それとそろそろお兄ちゃんっ子から卒業しないとね?いつまでもお兄ちゃんにベッタリしている訳にはいかないわよ?三人もお嫁さん候補がいるんだから…」


「えっ?しないし?それに絶対そんなの認めないしっ!」


 即答かよっ!?それにしても母さんは何言ってんだ?そんな三人もお嫁さん候補なんてどこにいるんだよ?優花なんか俺の嫁候補にいれられたんじゃないかと顔を真っ赤にして怒ってるぞ?



「まったく芽依は…そこはうんと言いなさいよね?全く…」


 母さんが呆れながら芽依に言う。ずっとお兄ちゃんお兄ちゃん言って来てたもんだからそれがいつかなくなると思うと少し寂しく感じてしまうな。


「まあ、芽依は小さい頃からお兄ちゃんっ子だったからなぁ~。急には無理なんじゃないか?」


「流石お父さん!私を分かってるぅ~~」


「はぁ~~~。優花ちゃん…芽依がごめんね?」


「い、いえ、私は気にしてませんよ…?」


「ありがとうね?じゃあ、時間もない事だし、とにかくみんなで食事にしましょうか」


「「「「は~い」」」」



 今日はどうやらスクランブルエッグの様だ。それにベーコンにトースト、サラダが朝ご飯のメニューになっている。どれもこれも美味しそうだ。


「うん。今日も美味しいよ…母さん。特にこのサラダのドレッシングがいい。手作りだよね?」


 俺はいつも料理の感想を伝える様にしている。作ってくれた人は言ってもらう方が嬉しいと思うんだよな。毎日料理作るのって大変だしな。お礼も込める為にね。


「ふふふ…そうっかぁ。美味しいかぁ~。美味しいってよ?ねっ、優花ちゃん♪」


「えっ?これ…優花が作ったの?」


「う、うん…ホントに…美味しい?」


 そんな恐る恐る聞かなくても俺は嘘は言わないぞ?


「うん。俺好みの味かな。ちょっと酸味が効いてるところがまた好きかな」 


「好きっ!?」


 いやいや…何驚いてんの?ドレッシングの味の話をしてたよね?


「っ!! そ、そうだよね!それなら良かったよ。そ、そっかぁ…美味しいかぁ…♪」


「あらあら…良かったわね、優花ちゃん♪ 」


「は、はい!お義母さんのお陰です!」


「くっ…これは女子力で優花さんに負けてる!?お、お母さんっ!?私にも料理教えてっ!!」


「あんた…私が今まで教えようとしても習わなかったじゃない」


「気が変わったの!」


 まあ、頑張るのはいいことだと父さんが言って芽依を諭している。俺はというとこの美味しい食事に舌鼓をうつのだった。








 

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