第13話神楽坂優花⑥

 男の子が倒れた後…園内は一時騒然となった。額から血を流し倒れている子供、誘拐未遂が起こった事が知れ渡った為だ。


 当然大勢の警察官の人達が園内、園外を取り囲んだ感じになった。同じく通報を受けた救急の人達もすぐに園内へと駆けつけている。マスコミもたくさん押し寄せて連日テレビはこの事を報道した。


 お父さんはというと警察の人達に私を誘拐しようとした侍女の身柄を引き渡して事のなりまし等を説明した。この事件の少し後の話になるんだけどこの誘拐を企てた金喰は議員を失職後亡くなっている。またこれに関わったとされてる人達もまた全員亡くなっている。死因は不思議と



 まあ、色々言ったけどそんな事はどうでもよくて肝心なのは私を救ってくれた男の子の事だ。男の子は救急隊員の人達が現場へと到着後、すぐに担架に乗せられて…救急車に乗せられ…そして病院へと向かった。私とお母さんも一緒に向かったの…。


 そして…緊急手術。手術は無事に成功した。でも手術してから男の子が目を覚ますまでに三日も掛かった…。今でも思い出すわ…。その待ち時間が異様に長くて長くて男の子が心配で心配で堪らなかった事を…。

  

 そしてなにより忘れられないというか心に刻まれているというか何度でも思い出したくなるのはあなたが目覚めた時の事だ。


 だって──



「──優花っ!!?」



 あなたが目覚めて一番最初に口にした言葉は私の名前だったのだから……。



「わ、私はここだよ君?」



 私は豊和君に名前を呼ばれただけで顔が熱くなるのを感じた。どうして名前を知っているのかというと、豊和君が目を覚ました時には、彼の家族から色々聞いていたから…。



「…んあっ!?あ、あれ…?何で俺は…?それに…神楽坂…優花が…目の前にいるのは何でなんだっ???」   


 もう一度私のヒーローでもある豊和君に話し掛けようとしたら邪魔者がいたのよね…。



「──やあ、無事に目が覚めた様でなによりだ」


「神楽坂優花の…お父さん…?」


「そうだよ。今更になるんだがお互い名前すら名乗って居なかったね?改めて名乗らせてもらうよ。私は神楽坂悠介。知っているとは思うが優花の父親で国会議員をしている。私の事は優花パパでもおじさんでも、君の好きな呼び方で読んでくれていい」


「えっ…と…俺…いえ、僕も名乗りますね。城咲豊和しろさきとよかずです。では…悠介さんと呼ばせてもらってもいいですか?」


「ああ。勿論だとも。まずは君の現状から説明させてくれ」


「あ、はい」


「君は優花を助けてくれた後、救急車でここに運ばれて手術を受けたんだ。今日で術後三日。脳波に異常はなかったみたいだが三日間君は眠っていたんだ。目が覚めたのでこの後検査が行われる筈だ」


「はい」


「包帯が巻かれている場所は縫合してる箇所なので触らないようにな?それと殴られた事による顔の腫れやむしり取られた後頭部は時間の経過とともに治るという事だ。傷も残らないらしい」


「はい、詳しい説明ありがとうございます。そっかぁ…三日間も…あっ!?」


「どうかしたのかい!?」


「い、いえ…その…母さん達に心配掛けてしまったので怒られるなぁ…と」


「その辺は私も一緒に謝らせてもらうし、怒られよう。君を連れて遊園地に連れて行ったのは私だからね…。君の家族には一通り説明させてもらってはいるよ」


「…いえ…悠介さんにそこまでは…」


「あなた?」

「パパ?」


「おっとすまない…話の途中だが紹介させてくれ。こっちが妻の麻美あさみだ」


「悠介の妻であり、優花の母親の麻美です」


「知ってるとは思うがこっちは君が助けてくれた娘の「優花だよ♡宜しくね豊和君♡」…コホン。一通り自己紹介を終えたところで──」


「なっ…!?」


「…君が居なかったら優花がどうなっていたのか分からない…本当に…ありがとう…」


「本当にありがとう豊和君。あなたのお陰で…娘が無事でした…本当に…本当にありがとうございます」


「あ、ありがとうございます…豊和君」


 お父さんとお母さん、そして私は豊和君に対して三人同時に頭を下げた。順々にお礼を述べるのも忘れない。私達がなかなか下げた頭をあげないものだから豊和君は慌てて頭を上げる様に言ってきたんだよね…。


「と、とにかく頭をあげて下さい!お礼なんて…本当にいいんですよ?俺が勝手に優花さんを助けたかっただけなんですから…それに…悠介さんが信じてくれなければそもそもの話、優花さんを助けられなかったんで…」


「…礼はいくら言っても言い足りないくらいなのだが…仕方ない。恩人を困らせたくはないからね、これ位にしておくとしようか。構わないかい?」


「はい、そうして頂けると俺も楽です」


「…恩人に対して物凄く失礼な事を言うが…君本当に5歳かい?話し方といい、考え方といい…私は大人と喋っている気がするんだが…」


「あなたっ!?恩人の豊和君に対して本当に失礼よっ!?きっと考え方なんかが大人っぽいだけよ!」


「そうだよ!パパっ!何言ってんの!?豊和君に対して失礼だよ!謝って!」


「す、すまない…つ、つい…思った事を口にだな…?」


「あなたぁ!」

「パパぁっ!」


「す、すまない…気をつける…何も二人してそんなに怒って言わなくても…」


「ええっと…自分で言うのはなんですが…中身は大人で見た目は子供って感じですよね」


「あっ!私、そのアニメ知ってるよ!?今、大人気だもんね!私が好きなキャラはねっ?ええとええと──」


「ゆ、優花!?ま、待ちなさい。豊和君と話したいのは分かっているがもう少しだけパパが時間を貰うからね?この後も私は色々とやらねばならん事があるからね?」


「…ぶぅ~~~」


「ほらほら、優花?ここはお父さんに譲ってあげてね?この後、豊和君の体調が大丈夫なら検査が終わった後で話せばいいじゃない?」


「…うん。分かった」


「──さて…君には話しておいた方がいいと思うので伝えておくとしよう。優花を連れ去ろうとしたやからは捕まえたよ。それから企てたものは君の言った通り彼で間違いないみたいだ。そっちは少し時間は掛かるが必ず報いは受けさせるつもりだ。当然私の屋敷に紛れていた輩も一人残らずね…」


「…そうですか」


「まさか連中が選挙の最中にこんな事をしでかすとは流石に予想出来なかったよ」


「ですよね」


「そんな連中の魔の手から君は娘を…いや、私達家族を助けてくれたんだ。私に出来る事は何でもするとここで約束しよう。何でも言ってくれて構わない」


「…では…お言葉に甘えて…早速ですが一つだけ良いでしょうか?」


「何だい?何でも言ってくれ!」


「優花ちゃんの気持ちもあるので少し言いにくいんですが…優花ちゃんを転校させてもらう事は可能でしょうか?俺の通う小学校に…」


「っ!?そ、それは…君にはまだ色々と視えていると捉えていいのかい?」


「そうですね…はい。その方が俺もまた力になれると思うし、助けられると思いますので…。でも、転校となるとさっきも言ったように優花ちゃんの意思というか気持ち──「するよ!パパっ!私、転校するから!決めたからね!」…えっ…と…いいの?言っておいてなんだけど、仲のいい友達と離れちゃうよ?」


「豊和君がいるもん♪そうでしょっ?」


「そりゃあ…俺はいるけど…」


「あらあら…優花ったら…」


「ふむ…では…まず家から捜すとしようか。麻美も構わないか?」


「勿論ですよ、あなた。優花もそれを望んでいるようですしね」


「分かった。ではすぐに家の方の手配をするとしようか。場所は──「豊和君の家の隣!」…出来るだけ近くを…」


「ぶう~ 隣がいいのにぃ~」


「そんな都合よく空いてるわけないだろ?近くにするから」


「…うん」


「あっ、それからすいません悠介さん。図々しいと思われても仕方ないのですがもう一つだけいいでしょうか?」


「勿論構わないよ?転校の事は優花の事を思っての事だからね。いくつでも君自身の事を言ってくれていい」


「悠介さんにいつでも連絡出来る手段が欲しいんですが?」


「それもすぐに手配しよう。君のご両親には私の方からうまく言っておくよ。携帯の料金も私の方で受け持つからね」


「ありがとうございます」


「いや、礼を言うのはコチラなんだがね…」


「パパっ!私も豊和君と連絡したいよ!」


「も、もう、優花は…」


「…はいはい…。分かった分かった。優花の分も用意するさ。さて…それではそろそろ私は行くとしよう。携帯は使いの者に今日にでも届けさせる。何かあったらすぐに連絡してくれたまえ」


「ありがとうございます悠介さん」


「こちらの方がありがとうなんだがね?」


「豊和君!パパの事は放って置いていいから私とお話しようっ♪」


「えっ…と…」


「まあ…そんなわけだ。優花が迷惑かけると思うが宜しく頼む」


「いえ、迷惑ではないので…分かりました」



 そしてお父さんは病室を後にした。この後、豊和君は念の為に検査に行くことに。検査が終わったらいっぱい豊和君とお話ししたのよね…それが楽しくて楽しくて…。見舞いにも毎日のように訪れて…豊和君が眠っている時なんかは起こさないようにしながら静かに豊和君寝顔を見てたのよね…。




♢♢♢



「──あの時から…ううん…助けて貰ったあの瞬間…私は…豊和君に一目惚れしたの…私は豊和君がずっと大好きだよ…?」  


 豊和君が眠っている時ならこんな風に素直に自分の気持ちを言えるんだけどな…。


「もう少しだけこのまま見ていたいけど…そろそろ起こさないと…いけないわよね…」


 豊和君の部屋にある時計を見ると、いつの間にか豊和君を起こさないといけない時間になっていた。


「ほらっ♪豊和君♡起きて…?」


 とりあえず豊和君の寝顔を存分に堪能出来たし、今日も1日頑張ろうとっ♪




 






 

 

 

 


  

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