第33話閉じ込められた二人

「…どこからも出られないし…暫くしたら愛さん辺りが気付いて助けに来てくれるだろうし…大人しく座って待ってようぜ…」


 窓が無く、明かりもない。部屋の中は当然真っ暗だ。だからあんまり無闇に動かない方がいいと判断する。流石に目は慣れてきたけど…全てが見える訳じゃないからな…。


「えっ!?ええ…そ、そうね…」


 余計な体力も今は使わない方がいいかと思い俺はその場に腰を降ろした。


「っ!? すんすん…」


 すると…なにやら自分の匂いを嗅いでいるような仕草をしている優花の姿が視界に入った気がした。それから優花はちょこんという感じで肩と肩が微かに触れる距離へと座り込んだ。


「どうかした?」


「べ…別に…走った後だし…汗嗅いてるから…その…に、匂いが気になって…確かめてたっていうか…」


 俺は何を気にしてるんだと思うと無意識に優花に顔を近付けて…すんすん…


「ちょっ!?」


「いい匂いしかしないけど?」


 ホントに走って汗を嗅いた後なのかと疑問に思うほどだ。それどころかいつもよりも甘い香りがする気が…。


「も、もぅ…ばかっ…(かぁ〜〜〜)」


「あっ…悪い」


 考えてみるとセクハラだよな?なんだかんだで付き合いが長いせいか距離感を間違えてしまう…。気をつけないとな。



「そ、そういえば優花が水筒を持って来てたのは良かったよな」


「そ、そうね。ただ…飲み過ぎちゃうと…困るけどね…」


 ああ…トイレな…。確かにそれはあるけど…そんなに長い時間閉じ込められる事もないだろう…。ないよな?


「悪い…少しもらってもいいか?」


「うん、はい」


「サンキュー…ゴクッ…ふぅ〜 優花も一口位は水分を含んでおけよ?脱水症状なんてなったら大変だしな…ほい」


「そうね…ゴクッ………(あれっ………

…………これって………間接キスでは…)」


「どうかしたか?」


「ふぇっ!?にゃ、にゃんでもにゃいわよっ!?」


「そ、そうか?」


「そ、そうよっ!」


 何でもないようには感じないんだが…あっ!?


「悪い…俺が口つけちまったからか?」


「にゃんでそこに気付くのっ!?いつも鈍感な癖にっ!?」


「酷くねっ!?」


「でも…べ、別に…豊和君なら…嫌じゃないから…と、とにかく…気にしないで…」


「ああ、分かった」






 それから2時間以上は経過しただろうか。正確な時間は流石に分からないけど、体感的にはそんな感じがする…。


「流石に愛さんが気付いてる頃だと思うんだが…」


「…そういえばさぁ…豊和君の中でやけに愛の評価が高くない?」


「そうかな?まあ…実際頼りになるし…」


「…そっかぁ…それって…愛みたいな女性が…タイプって事なの?」


 優花の表情はハッキリと分からないけど…なんだか少し不安そうな声に聞こえる。暗闇のせいもあるか?


「いや…タイプとかそういうのは一度も思った事はないけど…まあ…綺麗だとは思うけど?」


「…ふ、ふ〜ん…豊和君には…愛は綺麗に映ってるんだね…ふ〜ん…へぇ〜…」


 今度は一転、なんだか不機嫌そうなんだがっ!?アレか!?同性を褒めるなら私を一番褒めろとかそういった感じかっ!?そういえばそんな事が書かれていたのを本で読んだ事があるな…。


「優花が一番綺麗で可愛いのは言わなくても分かってるだろ?」


「…ふぁっ!?」


 ふぁっ―ってなんだよ…。そんな驚く様な事は言ってないだろうに?


「きゅ、急にっ!?も、もう…そ、そういうのは良くないからねっ!?反省してっ!?」


「…何を反省するのか分からんが…一応了承しておくよ」


 女性と接するのは本当に難しいもんだな。それが家族みたいな存在でも…。


「あれっ…」


「んっ?どうした?」


「コレ…なんだろ?何か…子瓶みたい…振ると水音がするから何か入っているみたい…」


 子瓶?何か嫌な予感がする…。何だろ…何か忘れてる様な…


「優花…変な物に触るなよ?それと振るんじゃないよ。フルフルフ◯ンタじゃないんだぞ?」


「えっ…うん…分かっ…きゃあ―ッ!?」


「優花っ!?」


“―パリンッ!”


 いや…パリンって…優花よ…。もしかして子瓶を放り投げたのか?投げたよな?


「むむむむむむ、虫ぃー!?手に虫がぁー!?豊和君 早く取ってぇーっ!?」


「はいよ!ほらっ、もう大丈夫大丈夫…大丈夫だから…」


 たぶん蜘蛛か何かだろうと思った俺は優花の手を払ってあげながら、もう虫はいないから落ち着くようにと言って聞かせた…。


 まあ、急に虫が手についたら女性なら特にビックリするか…。しかも真っ暗だしな…。



 そう思っていると今度は俺がビックリする事に…。優花が突然俺の首に腕を回し抱きついてきたんだ…。


 向かい合わせに頬と頬が重なる。


 そして俺の耳元でボソッっと優花が子供みたいに呟く…。


「…虫…嫌い…怖かった…気色悪い…」


「もう…大丈夫って言ったろ?」


「んっ…」


 よっぽど怖かったんだろうな…。優花が虫がこんなに苦手だとは…いや…ゴキブリの時もこう子供みたいになってたかと思うと俺は苦笑するしかない。



 そういうところも可愛いし…ヒロインの本来の魅力なのかも知れないな…。





 そしてそのまま時間だけが過ぎていき…


「ねぇ…」


「んっ?」 


「しよ?」


「……えっ?」






***

あとがき


凛「アウト!アウトだよ、優花ちゃん!?」


日和「これは…うん…アウトだろ」


天音「ほ、ホントだよ」


芽依「ぐぬぬぬっ…私のお兄ちゃんに…くっ…どうして優花さんばかり…」


愛「いや〜お嬢様のあんな姿…そそりますね☆」


凛「あれ…愛さん…助けに行かないの?」


愛「行くわけありませんよ」


芽依「いって!?そこは今すぐ行って!?」


愛「別の意味で二人がいきそうですね。くふふふふっ☆」


凛「それはもう試合終了、ゲームセットだよ!?」




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