第24話二人目

歌羽さんは今、治療を受けている最中だ。怪我の具合を見てもらっていると言った方がいいかな?とにかく俺は待合室で歌羽さんの治療が終わるのを待っていた。ただ日和の時もそうだったんだけどかなり自責の念が沸き起こるんだよな。その理由としてそういう事が起こるのを俺は分かっているのに、現場を取り押さえる為に二人には怖い思いをさせてしまった事だな。



 ぶっちゃけるとそれを阻止するとしたらまだ何も起こしてない犯人を始末するしかないだろう。または関わらないように何らかの手を打つって事もできるかも知れないけど、そうなったらシナリオがどうなるかが分からない…。




 今のところは一応シナリオ通りだ。今日の事を振り返るとこんな感じだ。舞台となる視聴覚室へ立物と歌羽さんが向かうのを物陰から俺は確認していた。そこまでは良かったんだけど思わぬ事が起こってしまった。


「豊和っち!そんなところで何してんの?」


 優花と愛、それに凛の三人には先に帰ってるいように伝えておいたんだけど、彼女の事は念頭に入ってなかった。昼休みに話しかけられたのだから友達みたいなもんだしな。彼女の動向にも気をつけてないといけなかったな。


「いや…別に何もしてないけど?」


「何もしてなくてこんな物陰に隠れる訳ないっしょっ?」


「…それは…」


「それは?」


「そんな事より日和はどうしてここに?」


「豊和っちがここに潜むのが見えたからだけど?」


 俺も注意力が足りなかったな。さて…どうするかな…。


「あのさ、日和」


「何?」


「悪いんだけど…今は…」


「そっかぁ…分かった。あたし帰るわ」


「へっ?」


「今は言えないんだろ?じゃあ深く聞かないし。そんかわし…」


「その代わり…?」


「今度あたしに付き合えよ…買い物に…」


「分かった。奢るからそれでいいか?」


「割り勘でいいよ。約束したかんな?」


「了解。サンキューな、日和」


「…礼を言うのはあたしなんだけどな…」



 日和が何か最後にブツブツ言いながらその場を去るのを見送ってから急ぎ視聴覚室へ。ドアの上部に付いている小窓から中を覗き込むと立物が歌羽さんに覆い被さったタイミングだったんで慌てて俺はドアを蹴り飛ばしたというわけだ。立物が視聴覚室に歌羽さんとの行為を撮るために隠しビデオを設置していたのも知ってるからそれも動かぬ証拠にはなるんだけど…もう少し早く助けられたんじゃないかと思う。要反省しないといけない。とりかえしがつかないんじゃあ意味がないからな。


 




 

 それにしても…治療が長すぎないか?もしかして骨にヒビが入ってたり、最悪折れていたのか!?そんな事を思っているとひょこひょこと杖をつきながら歩いてくる歌羽さんの姿が視界へと入ってくる。


 俺は慌てて歌羽さんの元へと駆け寄ったんだ。


「ごめんね、豊和君…長い時間待たせてしまったみたいで。ようやく診察やらなんやら終わったよ」


「いや、そんなのは気にしなくても大丈夫。それよりどうだった?」


「うん。骨とかには異常はなくて、捻挫だって…。テーピングで固めてもらったし、ゆっくりなら歩けるよ?杖は念の為に感じかな」


「決して良くはないんだけど少しだけ安心したよ」


「ごめんね、心配掛けたみたいで…それに…改めて…ありがとうございます!おかげさまで捻挫だけで済みました!本当に…豊和君が来てくれなかったらどうなっていたか…うぅ…そう考えるとホント恐ろしいよね…」


「…もう少し早く助けられていたら歌羽さんがそういう怖い思いとかしなくて済んだのに。ホントにごめんな」


「そ、そういう意味で言ったんじゃないからねっ!?」


 歌羽さんは何度もそういう意味じゃないからという事、そして助けてくれたからこうやって話が出来るんだから責めてるわけじゃないのとアタフタしていた。


 …うん。俺もあんまり謝り過ぎるのも逆に歌羽さんに対して悪いなと歌羽さんのそんな様子を見てて思った。それにいつまでもこうやって立って喋るわけにもいかないからな。 俺は歌羽さんの前で背を向けてしゃがみ込む。


「…えっ?」


「まだ足が痛むよね?車迄おんぶしていくから遠慮せずに乗ってくれ」


「そ、そんな…わ、悪い…よ…」


「なら…学校でした様に「お、おんぶでお願いしますっ!」あ、嗚呼…分かった。いつでもどうぞ?」


「し、失礼しましゅっ…」


 そっと歌羽さんが体重を預けてくる。しっかりと歌羽さんをからうと、まずは病院の受付へと向かった。それから歌羽さんには待合席にジュースでも飲みながら座っていてもらい、お金を払ったり、湿布等をもらってから再び歌羽さんを背負ってようやく病院を後にした。






 そして病院を出てすぐの事…


「あ、あの…お金は明日にでも払うからね?」


「えっ…と…気にしなくていいよ?」


「そ、そんなの駄目だよ!助けてもらった事もそうだけど…豊和君にはいっぱい借りが出来ちゃったもん」


「借りとかそういう風に俺は想っていないから」


「私がそう思うんだよ?」


「…じゃあ…一つだけ…お願いを聞いてもらってもいいか?」


「えっと…何?」


「今回の事なんだけど…事件は表沙汰にはせずに隠してもいいか?」


「…えっ?」


「隠すと言っても歌羽さんの事なんだけどな。だからといって立物を許す訳じゃないからな?アイツには檻の中で相応の罪をつぐなってもらう予定だよ。と、言っても俺がそれをする訳じゃないけどね」


「それは…私もアイドルで売ってるから…助かるけど…」


「うん。まあ、とにかく許すつもりはないって事だけ分かってもらえたらいいかな…」


「それ…って…あんまり聞かない方がいい話だよね?」


「まあ、面倒な裁判やらなんやらをすっ飛ばして檻の中にあいつは入るってだけかな…」


「…分かった。どうやってとかは深くは聞かない…それに…豊和君は…私の事を一番に考えて…そうした方がいいって言ってるんだよね?」


「うん」


 事件が表沙汰になるとアイドルレイプ未遂とか騒がれたうえに先程も言ったけど裁判とかにも出ないといけなくなるからな。被害者からすれば出来れば加害者の顔なんて見たくないだろうしな。


「…だったら…豊和君に任せるね?」


「…ホントに?」


「…うん。あっ…その代わりに…豊和君のメッセージアプリのIDを教えてもらってもいいかな?私、転校してきたばかりだし…こっちに友達少ないからさ」


「勿論。いいよ。でも…俺のなんかでいいの?」


「えっ!?う、うん。と、豊和君のがいいんだよ…」


「了解……んっ?そういえばよく俺の名前を知ってたな歌羽さんは」


「…ふぇっ!?」


「…俺言ったんだっけ?」


「ほほほほほほっ、ほらっ!な、名前言ってたじゃん!?わ、忘れちゃったのっ!?あああ、あの時だよ、あの時っ!」


(あわわわっ…!?う、嘘ついちゃったよぅ~~~!?)



「えっ…とっ…ごめんごめん。色々あったから言ったのを忘れてるみたいだ。悪い、ごめんな、歌羽さん」


「いい、いいんだよっ!?そんなの本当に気にしないでいいからねっ!?」


(し、信じちゃったよ!?ど、どうしよう…また謝られたんだけどっ!?良心の呵責に苛まれちゃうよぅ~~~!?)


「とにかく歌羽さんに何かあったら連絡してくれていいからな?些細な事でもいいから」


「う、うん。あっ…それと…私の呼び方は…天音でいいよ?私も豊和君って呼んでるからさぁ」


「了解…天音」


「……………(どどどどど、どうしよう……な、名前を呼ばれただけで…全身が熱くなっちゃう…それに…どんどん心臓が高なってしまう…)……」


「天音?」


「ひゃいっ!?にゃんでもありましぇん!」


 天音の様子がおかしい様な気がしたけど…まあ、気のせいか?とにかく手配した車に乗り込んだ後で、連絡先の交換をして天音を自宅へと送り、俺もその日は帰路へと着いた。




 


 少し先の話にはなるんだけど…立物は刑務所に収監後、毎日自分が掘られる側になった。そしてそこから出てくる事は…二度とない…。





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