第18話歌羽天音③
男の子との再会は突然の事だった。
それは収録を終えた後、家に帰る為に赤星さんの運転する車の後部座席に乗り込んだ時の事。収録で疲れてしまったのか私はいつの間にか夢の中へ―――。
『はい、赤星です!』
どのくらい眠っていたのかは分からない。短い時間だとは思う。赤星さんはどうやら電話中みたいだ。相手の声は聞こえない。
『はい。はい。そうですね。はい、それは私が持ってますよ、社長』
社長!?社長と電話しているの!?目をうっすら開けるとハンズフリーで通話中みたい。
そのまま寝たフリをして耳を傾けていると…
『それなら今からお持ちしますよ!社長が今いらっしゃる場所ならこれから車で通る道ですので!はい、横付けしますんで窓からお渡ししますね。はい、はい、了解しました。それでは…後程…』
嘘っ!?今から社長と会うの!?ホントにっ!?
「天音は居るけど……寝てるみたいだし、書類渡すだけだし、通り道でチャッチャッっと渡すだけだから、別に問題ないわよね?」
これはっ!?もしかして寝たフリを続ける事が出来たら社長の姿を拝めるっ?謎に包まれた社長を目にする事が出来る!?思い出すのよ、私…。賞を頂いた時みたいに役になりきるのよ…演じるのは熟睡している私…。
私なら出来る筈よ。
「さてと…水を飲んだら喉がうるウォーター」
唐突に何!?もしかして私が本当に寝てるか試してるの!?私はそれくらいでは笑わないよ!?
「私の人生のモテ期はまだ訪れていないだけ!」
今度は何!?
「それってあなたの感想ですよね?」
突然のヒ◯ユキ降臨!?一人でしかも自虐ネタ!?そこを突っ込むのっ!?
い、今のはかなり危なかったよ!?
起きているのがバレるところだったじゃないっ!?
「…ホントに寝てるみたいね」
何とか乗り切れたみたい。
「そういえば…社長の作る音楽って、素晴らしいと思わない、天音?」
「それは当たり前で…あっ…」
「やっぱり起きてた」
「…もしかして最初から分かってました?」
「そりゃあね。電話の相手が社長だと分かった瞬間だと思うけど、バックミラーに映るあなたがソワソワしているみたいだったから」
「そうでしたか…」
バレてしまった以上は社長のお姿は見れないかなと思い落ち込んでいると、そんな私を見かねたのか…
「…社長を一目見たい?」
「はい」
私は赤星さんに即答でそう返した。
「…分かったわ。そのまま帽子を深く被って、寝たフリしながら見てなさい。資料を渡すだけだから見逃さない様にね?後、社長には内緒だからね?」
「はい、勿論です!」
♢
車を路肩の停められる場所に横付けすると、助手席の窓が開く。
「社長、これがその資料になります」
「ありがとう、赤星さん」
「っ!?」
薄っすらと目を開けていた私は思わず目を見開き、声をあげそうになった。
「んっ?」
起きてるのに気付かれた!?
「ああ。すいません社長。先程収録を終えた担当の子を家迄送っていく最中だったんです…。どうやら疲れて今は眠っているみたいですが…」
ナイスです、赤星さん。
「そうなんですね。赤星さん御苦労様です。眠っている子にもお疲れ様ですと伝えておいて下さい」
「はい。ありがとうございます。それでは社長。担当の子を送り次第私はそのまま直帰しますね」
「うん。安全運転でね?わざわざありがとうね、資料」
「いえいえ…では」
車が走り出す。それにしても…まさか…
「…こら、天音。社長を見た瞬間、声を出しそうだったでしょ?」
「………」
「―天音?」
「…赤星さん。あの男の子が…本当に…社長なんですか?」
「そうだけど…どうしたの?」
「い、いえ…優しそうな…人だなって…」
「まあ、優しいし、格好いいし、気が利くし、お金も持ってるし、私が若かったら狙ってたわね」
「な、何を言ってるんですか!?」
「いや、まあ、半分本気でそう思うって事よ」
「…半分は思っているんですね」
「な〜に?もしかして豊和君に一目惚れとか言わないわよね?」
「ち、違いますよ〜。そ、そんなんじゃあ…ないです…たぶん…んっ?…豊和君?」
「あ、ヤバっ!?」
そんな会話をしていたらあっという間に家へと到着。ご飯を食べて、お風呂に入りベッドに横になる。
「そっかぁ。あの男の子…豊和君というのかぁ…」
いつもなら…ベッドに横になると役の事とか歌の事とかを考えるんだけど…今日はあの男の子の事ばかり考えてしまう。結局あの後、赤星さんは名前以外は教えてくれなかったけど…。まあ、口を滑らせてしまった感じだったしね。
それにしても…あの男の子が社長だったなんて…探しものを一緒に探してくれて…あんなに素敵な音楽を作れて…優しくて…
“―トクン…”
「な、何だろう?今の…」
男の子の事を考えてたら…
“―トクン トクン…”
「またっ!?」
つ、疲れちゃったかな?何だか体も熱い気がするし…。今日はもう寝ようっと。
♢
社長と出会ってからというもの…社長の事を考える時間が日に日に増えて来た様に思える…。
まあ、だからといって何かが変わったわけじゃあないんだけどね。そんななかでも日々勉学と仕事に精を出していると、私もとうとう高校生になる時がやって来た。それと同時にナンバーワンアイドルと言われる様になった。
まだ自分では全然だと思うんだけど…頑張った証みたいで嬉しくなる。
そして高校生活が始まるというときに、お父さんからこんな話が…。
「天音。急な事で悪いんだが…俺の仕事の都合で引っ越しする事になった。ついてはみんなで引っ越しを考えてる」
お父さんはせめて私が高校卒業するまでは家族みんなで過ごしたいという思いがあるみたい。私はそれに了承。転校先にある高校の編入試験を受けて、見事に合格。
入学式から遅れる事10日後…。
私の初の登校日。先生に呼ばれたので教室に入り、自己紹介…。自己紹介を終え、教室を見渡すとそこには…あなたの姿が……。
“―トクントクン”
また心臓が音を奏でる。
そして、ふと…私が好きな恋愛映画で流れる言葉を思い出した。
『一度目は偶然…二度目も偶然…でも、三度目は運命…』
***
あとがき
優花「いや、三度目も偶然よっ!」
凛「そうだよ、偶然だよ!」
芽依「アイドル…恐るべし…」
日和「これが…アイドルと呼ばれる由縁なのか?」
優花「運命は私だからっ!!」
凛「そんなの私だって…」
芽依「凛ちゃんは舞台にも立ててないじゃん」
凛「………へっ?」
日和「まあ、そうだな」
凛「…えっ?えっ?」
優花「ライバルだと思ってたけど…残念だわ…」
凛「ちょっ!?ちょっと待って!?私も、私も舞台に立つから!もうすぐ…きっと…私の出番が……あるもん」
芽依「あっ、ちなみに優花ちゃんの今日のショーツはクマさんのイラストがお尻の方に大きく描かれた白いショーツだよ!!」
優花「ちょっ!?何言ってんのっ!?きょ、今日はたまたまソレしかなかったのよ〜〜」
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