第20話歌羽天音③
男の子との再会は突然訪れた。 それは収録を終えた後、家に帰る為に赤星さんの運転する車の後部座席に乗り込んだ時の事。収録で疲れてしまったのか私はいつの間にか夢の中へ──
『─はい、赤星です!』
どのくらい眠っていたのかは分からない。短い時間だとは思う。赤星さんはどうやら電話中みたいだ。相手の声は聞こえない。
『はい。はい。そうですね。はい、それは私が持ってますよ、社長』
社長!?赤星さんは今、社長と電話しているの!?目をうっすら開けるとハンズフリーで通話中みたい。 そのまま寝たフリをして耳を傾けていると…
『それなら今からお持ちします!社長が今いらっしゃる場所ならこれから車で通る道ですので!はい、横付けしますんで窓からお渡ししますね。はい、はい、了解しました。それでは…後程…』
嘘っ!?今から社長と会うの!?ホントにっ!?
「天音は…寝てるみたいだし、書類渡すだけだし、通り道でチャッチャッっと渡すだけだから別に問題ないわよね?」
こここ、これはっ!?もしかして寝たフリを続ける事が出来たらついに社長の姿を拝めるのっ?謎に包まれた社長を目にする事が出来る!?思い出すのよ、私…。これはチャンス。賞を頂いた時みたいに役になりきるのっ…演じるのは熟睡している私…。
私なら出来る筈よ?さぁ、やるのよ!天音!
「ぷはっ…水が美味しいわね。水を飲んだら喉がうるウォーター」
唐突に何!?もしかして私が本当に寝てるか試してるの!?私はそれくらいでは笑わないよ!?
「それにしても…私の人生のモテ期はまだ訪れていないだけなのに…みんなやれ結婚だの、やれ付き合ってるだの…色々自慢してくれとゃって…」
今度は何なのっ!?
「まあ、それってあなたの感想ですよね?」
突然のヒ◯ユキ降臨!?一人でしかも自虐ネタ!?そこを突っ込むのっ!?あ、危ない危ない…。 い、今のはかなり危なかったよ!? 起きているのがバレるところだったじゃないっ!?
「…ホントに寝てるみたいね」
な、何とか乗り切れたみたいだ…。
「あっ、そういえば…社長の作る音楽って、素晴らしいと思わない天音?」
「それは当たり前です!何言って…あっ…」
「やっぱり起きてた」
「…もしかして最初から分かってました?」
「そりゃあね。電話の相手が社長だと分かった瞬間だと思うけど、バックミラーに映るあなたがソワソワしているみたいだったから」
「そ、そうでしたか…」
バレてしまった以上は社長のお姿は見れないかなと思い落ち込んでいると、そんな私を見かねたのか…
「…そんなに社長に会いたいの?」
「は、はいっ!!」
私は赤星さんに即答でそう返した。
「…分かったわ。そのまま帽子を深く被って、サングラスつけて寝たフリしながら見てなさい。資料を渡すだけだから見逃さない様にね?」
「はい、勿論です!」
♢
車を路肩の停められる場所に横付けすると、助手席の窓が開く。
「社長、これがその資料になります」
「ありがとう、赤星さん」
「ああっ!?」
薄っすらと目を開けていた私は思わず目を見開き、声をあげてしまった。
「んっ?」
後部座席に居るのが気付かれた!?
「アレっ…君はこの間の…」
「あ、あの時の…!?」
「ああ。すいません社長。実は先程収録を終えたこの子を家迄送っていく最中だったんですけど…なにやらお互いすでに顔を合わせていたみたいですね?」
「あっ、ああ、そうなんですね。赤星さんお疲れ様です。実は先日彼女がなにやら落とし物を探してるみたいでしたので…それで…」
「そ、そうなんです…。親切に手伝って下さって…それで…この間はありがとうございました!」
「いえ、あれくらいは…それよりうちの会社のタレントさんだったんだね」
「あ、はい。お、御世話になっております」
「御世話になってるのは会社の方だよ。本当にありがとうね?うちに在籍してくれて」
「いえ、この会社のお陰で私は…」
「あっ、ごめん…ちょっと電話が…」
「あっ…それでは社長。私達はこれで失礼しますね?この子を送り次第私はそのまま直帰しますので」
「あ、うん。安全運転でね?わざわざありがとうね、
「いえいえ…では」
車が走り出す。それにしても…まさか…
「…まさか社長と天音が顔を合わせていたとはね…でも…社長…天音とは気がついてなかったみたいね?」
「…それは…そうですよ…暗いし、サングラスしてるし…帽子も深く被って…あっ!?帽子脱がなかったけど失礼だったよね!?」
「…大丈夫よ、それくらい」
「…そ、それにしても…あ、赤星さん?」
「な~に?」
「あの男の子が…本当に…社長なんですか?」
「そうだけど…どうしたの?」
「歌や曲を作って…るんですよね?私と同じくらいに見えるんですけど…」
「ああ…確か天音とは同級生の筈よ?それに優しいし、格好いいし、気が利くし、お金も持ってるし、私も本気で狙いたいなと思うくらい素敵な男性よ?」
「なななな、何を言ってるんですか!?」
「いや、まあ、半分本気でそう思うって事よ」
「…は、半分は思っているんですね?や、優しいのは…知ってますけど…」
「な~に?もしかして憧れていた豊和君に直に会ったら本当に一目惚れしたとか言わないわよね?」
「そ、それは……んっ?…豊和君?」
「あ、社長の名前よ」
「そんな大事な事をこのタイミングで!?」
「あっ、家に着いたわよ」
「タイミング最悪過ぎます!?もっと色々聞きたかったのに…」
「まあ、好きな人の事は知りたいわよね?」
「あう…その…ちょ、チョロい…ですかね?私…?」
「まあ、いいんじゃない?恋なんてそんなものよ!」
そんな会話をして…赤星さんと別れた後、家に入りご飯を食べて、お風呂に入ってベッドに横になる。
「そっかぁ。あの男の子が…私の憧れていた社長さんだったんだぁ…。名前は豊和君というのかぁ…」
いつもなら…ベッドに横になると役の事とか歌の事とかを考えるんだけど…今日は豊和君の事ばかり考えてしまう。
探しものを一緒に探してくれて…あんなに素敵な音楽も作れて…おまけに優しくて…格好よくて…
“──トクン…トクン…トクントクントクン…”
「これって…そういう事だよね?」
男の子の事を考えてたら…
“──トクン トクン…”
「鼓動が止まらない…」
何だか体が熱い…。私の手は自然と下腹部へと伸びて…
「…んっ…」
♢
社長と出会ってからというもの…社長の事を考える時間が日に日に増えて来た様に思える…。 まあ、だからといって何かが変わったわけじゃあないんだけどね。
そんななかでも日々勉学と仕事に精を出していると、私もとうとう高校生になる時がやって来た。それと同時に名実共にナンバーワンアイドルと言われる様になった。 まだ自分では全然だと思うんだけど…頑張った証みたいで嬉しくなる。 そして高校生活が始まるというときに、お父さんからこんな話が…。
「天音。急な事で悪いんだが…俺の仕事の都合で引っ越しする事になった。ついてはみんなで引っ越しを考えてる」
お父さんはせめて私が高校卒業するまでは家族みんなで過ごしたいという思いがあるみたい。私はそれに了承。転校先にある高校の編入試験を受けて、見事に合格。 入学式から遅れる事10日後…。
私の初の登校日。
先生に呼ばれたので教室に入り、自己紹介…。自己紹介を終え、教室を見渡すとそこには…あなたの姿が……。
“──トクントクン”
ま、また心臓が音を奏でる。 そして、ふと…私が好きな恋愛映画で流れる言葉を思い出した。
『一度目は偶然…二度目も偶然…でも、三度目は運命の恋と…』
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