第11話神楽坂優花④

「うちに何か用なのかい?」


 インターホンを鳴らそうとしていた俺に声を掛けてきてくれたのは神楽坂優花の父親の神楽坂悠介だった。俺はその問いに慌てて口を開いた。


「こ、ここは優花ちゃんの家ですよね!?優花ちゃんは居ますかっ!?」


「そうだよ…。ここは優花の家で間違いないよ。ただ…優花なら出掛けているんだ。遊園地にね?もしかして優花と約束でもしてたのかい?優花は遊園地に行きたいって我儘を言ってたから遊園地の事ばかり考えていて約束していたなら忘れていたのかも知れない。ごめんね?」


「い、いえ、約束は…その…してなかったので…」


 マズイ!?遅かったか…!?早めに出てきたのに初めての場所に来たもんだから迷ってしまった…くそっ…!で、でも、話し掛けて来てくれたのが神楽坂優花の父親だったのは運が良いと救いかも知れないと俺は思ったんだ。うまく話をすれば車やらなんやらを出して貰えるよな?



 ──だが、そう思ったと同時に思う。何と言えばいいのか?と…。あなたの娘が狙われてます?これから悲惨な目にあうから車を出して欲しい?そんな事を言うつもりか! ?そんな話をいきなりしても信じてもらえる筈ないだろうがよっ!?


 それに…神楽坂悠介の周りの連中の中にも確か神楽坂悠介を見張ってる奴等が混ざっていた筈だ。ソイツ等はどうする!? 考えろ、考えるんだ! 思考を巡らせろ!俺がここに来た理由はなんだ!神楽坂優花を救うんだろ!!考えるんだぁぁぁー!!



 何と言おうか考えているうちに周りの連中の一人が俺より先に口を開いた。



「…神楽坂様。後は私達の方でこの子から話を聞いておきますので。神楽坂様はどうぞ屋敷の中へ」


「…ああ。この子も大人がわんさか集まっていたら話にくいだろうしね。君に頼もうかな」


「はい」


 マズイ!神楽坂悠介が行ってしまう。俺は咄嗟に言葉を紡いだ。


「ま、待って!優花ちゃんのお父さん!俺は優花ちゃんのお父さんに優花ちゃんの事で二人っきりでしたいお話があるんです!お願いです!お願いですから待って下さいっ!」


 歩き出した父親が足を止めてくれた。周りの連中は神楽坂悠介に屋敷の中へ入る様に再度促していたのだが、周りの連中を制して一人でコチラへ向かって来てくれたんだ。


「はい、言われた通りに私一人で来たよ。もし優花と結婚したいという話ならまだ早いとだけ言っておこうか。はははっ…」


「違います!」


 俺は即答で答える。そしてそれは神楽坂悠介自身冗談で話していた事が次の言葉で分かった。


「…だろうね。君は優花の友達でもなんでもないよね?君を先程から見てたんだけど…優花と同じくらいの歳のようだが、優花の通う学校で君の顔は見た事ないしね…?まあ、私が知らないだけかも知れないという線もあるにはあるが…」


「おっしゃる通りです。俺は…優花ちゃんとは同じ学校ではありません。まして会った事もないですし、優花ちゃんも当然俺の事は1ミリたりとも知らないでしょう…」


 俺は正直にそう言ったんだ。神楽坂優花の父親の俺を見る目を見た時に分かった。この人に嘘は通じないと思ったんだ。


「…じゃあ、何故君は優花を知っているんだい?君はどこの誰なんだい?それに優花の事とはなんだい?」


「…視えたからです!」


「………視えた?」


「はい!優花ちゃんが連れ去られる所が俺には視えたからです!でもこれは嘘じゃないんです!信じて下さい!だから優花ちゃんを連れ去ろうも計画を立てた人物も分かります!」


「…誰だい?そんな事を企てたのは…?」


「あなたのライバルの党の一人、金喰かねくいという名の国会議員です!あなたのライバルの党にいますよね?彼が全てを企てています!連れ去ろうとしている場所は優花ちゃんが向かった遊園地です。又、それを実行しようとしている人物はあなたが雇った侍女の媒介ばいかいという女性です。その証拠ですがすでに優花ちゃん達に連絡がつかない状態になっている筈です!警察に言う訳にもいかないんです!その理由は金喰の息がかかっている者も居るからです!こうしてあなたと二人っきりで話しているのもあなたの後ろの連中の中に金喰の息がかかっている者が何人か居るからなんです!」


 俺は真っ直ぐに神楽坂優花の父親の目を見て片時も逸らさずに言葉を伝えていく。そして神楽坂悠介はそんな俺の言葉にずっと耳を傾けてくれている…。


「どうか!どうか!俺の言葉を信じてもらえませんかっ!!そして今すぐ俺も一緒に乗せて車を出してもらえませんかっ!?今なら間に合います!いや、バイクがあるならそっちの方が早いのでバイクを出して下さい!こうして話してる時間も本当は惜しいんです!お願いします!お願いします!お願いしますっ…!!」

   


 俺は何度も頭を下げる。言いたい事は全て言った。伝えたい事は全て伝えた。これで信じてもらえないのなら走ってでも、ヒッチハイクでもタクシーでも何でもいいからどうにかして遊園地に行くしか残されてない──



「…分かった。車を…いやバイクを出そう。私は大型のバイクも運転できるからね。無論君も乗せていける」


「ほ、ホントですかっ!?」


「ああ。何事もなければただの笑い話で済む事だしね。金喰の息がかかっているかも知れない後ろの連中には君を送ってくると伝えておくとしよう。子供を送っていくんだ。そう疑念は抱かないだろう」


「はい!ありがとうございます!」








♢♢♢




 バイクをかっ飛ばして遊園地へようやく辿り着いた俺と神楽坂悠介。バイクを投げ捨てるように降りてすぐに遊園地の入園口へと向かったんだ。入園料は神楽坂悠介が立て替えてくれた。時間がないのでお釣りはいらないと言っているのを傍目に俺はパレードの事を受付のお兄さんに尋ねる。


「すいません!パレードはもう始まってるのっ!?」


「ちょっと待ってね…?ああ…この時間だとさっき始まったみたいだよ?」


 くそ、始まってたか!?


「場所はっ!?パレードが始まった場所はどこっ!?」


 入口にある遊園地の地図を指で指し、受付のお兄さんに場所を教えてもらう。


「え~と…ここですね!ここからパレードが始まってますので…時間を考えると…今は…ここですねっ!」


 お兄さんが指差した場所は園内の中央に当たる場所の手前だった。パレードが進むともうすぐ園内中央に差し掛かってしまう。園内中央近くにはトイレのマークもある。ゲームで母親がトイレに行ったのは園内中央近くと言っていたし、ここだ!間違いなくここのトイレが神楽坂優花の母親が娘と離れしまったトイレに間違いない!


 俺は急ぎその事を伝える!


「ここです!時間がありません!」


「分かった!時間がないのだろう?私は先に行く!」


 そう言って駆け出す神楽坂さん。俺も後を追う。 母親が娘と離れる前に父親が間にあってくれれば良いけど…厳しいだろうか? 


 間に合わなければ?  



 思い出せっ!


 確か連れ去ろうとしている犯人はどうしたんだ?優花を抱きかかえてパレードが向かう方向とは逆方向に向かったんだよな…? そこからどうやって遊園地から姿を消したのかまでは分からない。語られていないからだ。


 その前に見つける事が出来なければ終わりだ。


「──父親が中央に向かったんだ。なら俺は──」


 俺は走る方向を変えてパレードが始まった場所に向かう事にした。そしてそれは正しかった事になる。なぜならパレードを見ようと集まっている人達の中で何かを抱えている様な動きでパレードとは逆方向に向かっている女性を見つける事が出来たのだから…。



 そして、その女性と交差する直前…優花を抱えているのが視界に入った瞬間──




「優花っ!!!」




 俺は女性へと飛び掛かり…優花を抱きかかえてる女の腕に噛み付いたんだ…。











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