第9話神楽坂優花②
「ママっ!見てっ見てっ!コーシーカップがある~♪」
「ふふっ…コーヒーカップだよ?」
「あっちにはお馬さん♪パカパカパカッ♪」
「お嬢様が嬉しそうでなによりですね、奥様」
「ええ。連れて来てあげて良かったと思ってるわ。主人がいないのは残念だけどね。あの人も優花があんな楽しそうにしてるを見たかっただろうから…」
「奥様…旦那様に見せる映像はお任せ下さい!先程からしっかりとシャッターチャンスを逃さないように写真にも収めてますし、カメラも回しておりますので!」
「ふふっ…宜しくね?」
「はい」
「そ、それにしても本当に器用ね?右手にカメラ、左手にビデオを持ってそんな状態でよく綺麗な写真や映像が撮れるわね?」
「メイドとして当然です。メイドの嗜みとも言えますね」
「そ、そうなのね…」
「ほらぁぁ!ママぁぁ!早く早くっ!早くこっちこっち!こっちに来てぇ♪」
「あっ…はいはい。優花?そんなに慌てちゃったらコケちゃうわよ?」
「ざんね~んでしたぁ~!優花はそんなにドジじゃないも~ん♪」
私はお母さんと一緒に遊園地へとやって来ていた。入園口から入ってすぐ右側にぬいぐるみやらお土産が売ってる売店があるのよね…。コーヒーカップの遊具にメリーゴーランドもその場所から、回って動いているのが見えるのよねぇ…。思い出すと懐かしいなぁ…。
「ママ~!今度はアレに乗りたい!アレに乗る~!」
「…じぇ、ジェットコースターは優花にはまだ早いんじゃないかしら?」
「…どうやら身長制限がございますね。お嬢様がもう少し大きくなってからしか乗れないようです」
「ええ~~~っ!?そうなのっ!?じゃ、じゃあ優花早く大きくなんないとっ!大きくなれぇ~~~」
「そんなにすぐ大きくなるわけないでしょっ?今回は残念だけどこの乗り物はまた今度ね?ほら、あっちに行ってみましょう?」
園内を遊び回っていると視界に入ってきたのはジェットコースターだった。身長制限があって、当時の私は身長が足りなくて…だから乗れなかったのよね…。
遠目に、乗ってる人達を羨ましいなぁ~って思いながら見てたんだっけ…。
んっ?そういえば今なら豊和君と乗れるわね…。でも、あんな事があったから…遊園地はイヤかも知れないわね…。怪我までしちゃったしね…。でも…駄目元で豊和君を誘ってそういうイヤな思い出は良い思い出に入れ替えてしまえばいいんじゃないかしら…?
でもでも──。
ごほん……。 とにかくそういう訳で、代わりの別の乗り物に乗る事になって、乗ったのは電車。ライド・アトラクションの電車の乗り物だ。小さな子供だけ乗り込むタイプだったから、それに私一人で乗り込んで、その電車からお母さんに向かってはしゃぎながら手を振ったのよね。お母さんもそんな私に向かって笑顔で手を振り返してくれた。
写真も確か撮ってくれてた筈なんだけど…見た事ないわね…。
「ママァ~~~♪」
「優花ぁ!こっちよ!こっち向いて笑顔でピース頂戴!」
「ピ~~~スッ!」
もしかしたら写真から、この後起こった事を私が思い出さないで済むようにお母さんが隠してるのかな?私は豊和君のお陰で気にしてないんだけど…もしかしたらお母さんが思い出した くないのかも知れないわね…。私がお母さんの立場どったらそうするかも知れない。
そう…この後すぐだったのよね……。
「私はちょっとお花摘みに行ってくるわね?優花も一緒に行く?今のうちに済ませておいた方がいいんじゃない?」
「私はいいっ!今は出ないもん!」
「奥様!それでは私が責任を持ってお嬢様の事を見ておきますので…ごゆっくりどうぞ」
「…それじゃあお願いするわね?すぐ戻って来るから宜しくね」
「行ってらっしゃい!私待ってるね?」
「うん」
お母さんがトイレへと向かう後ろ姿を眺めていたら──
「さぁ、お嬢様!あそこをご覧下さい!」
「んっ?なになにっ!?」
「この遊園地で一番人気のマスコットキャラクターのハムハム犬太郎君です♪」
「ふわぁ~~~♡可愛いぃぃ~~~♡♡♡」
「見て下さい!他にも猫太郎君や牛太郎君も居ますね♪せっかくですし、どうせならハムハム犬太郎君に会いに行きましょうか?」
「えっ…?でも…まだお母さんが…」
「大丈夫ですよお嬢様?お嬢様には私がついてますし、奥様が行かれている
「…う、うん」
「今ならあのハムハム犬太郎のぬいぐるみが犬太郎君から直接もらえるみたいですね?貰えたらあのお友達に自慢出来るかも知れませんね?あっ…ほら!お嬢様!今がチャンスですよ!チャンスは逃したらいけませんよ!」
「ホントっ!?ホントにもらえるのっ!?自慢もできるの!?じゃあ行くっ!優花すぐに行くよっ!」
「分かりました!迷子にならない様に手を繋ぎましょうね?人も多いですしね!」
「うん、分かった。はい、お手て繋ぐぅ~」
私達は犬太郎達の元へ。犬太郎達はちょうどパレードの真っ最中だった。それを見る為に、参加する為に人々がそこら中にどんどん集まって群がっていく。
「…ぅぅっ…見えないよ?」
「そうですね…ここからじゃあ見えませんね。では…あちらの方によく見える場所がありますのであちらに行きましょうか」
「でも…」
私がトイレの方に向かって振り返るとお母さんがちょうどトイレから出てきたところだった。お母さんはキョロキョロとしているみたい。護衛の人達に話掛けているみたいなので私を探しているんだと思った。だから大きな声で…
「マっ──」
お母さんに私はここだよ~?と、場所を教えようとしていたのに、突然…侍女のお姉さんと繋いでいるその手が勢いよく引かれたの──
まるで重力に引っ張っられるかのように私は侍女のお姉さんに体重を預ける形になったの。
「─んむぅっ!?」
私を手元に引き寄せた侍女のお姉さんは私を抱え込むと同時に喋れない様に口を塞ぎ、そして素早く人混みの中へ紛れるように入って行く。お母さんの姿が一瞬で見えなくなってしまった。
最初に思ったのは『…何で?』だったと思う。どんどんお母さんとの距離が離れて行くからだ…。
次に思ったのが『…助けてっ!!』…かな…。だってお姉さんが私をどこかに連れて行こうとしてるのが流石に分かったからだ。足をバタバタさせてお姉さんに抗うものの効果はなかった。
ホント不思議だよね?こんなに大勢人が居るのに…誰も私に気付いてくれないんだから…。
それに異常だと思わない?いくらパレードの最中だとしても誰かしらこの異常な光景に気付いても良い筈なのにね?小さな子供の口を塞いで、抱え込んで人混みの中を駆け抜けながらパレードとは逆方向に向かってるのよ?一人くらいは声を掛けたり止めたりすると思わない?
なのに…
まるでそれが定められてるみたいに…私達の存在が消えて見えなくなっているかの様に…連れ去られていく私に誰も気が付いてくれないし、助けてくれる人も居なかった。
怖い…怖いよぅ…私どうなっちゃうの…?イヤだ!た、助けてっ…?誰でもいいから助けてよぅ!そこのおじさん!知らないおばさん!!
こっちを見て!私を見て!
…ママっ!…パパっ!…誰か…
誰…か…っ…
──助けてぇぇぇっ!!!
こんなに思っても…求めても…誰も助けてくれない…優花に気がついてくれない…
「優花ぁぁぁっ!!」
その声の主以外は──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます