第8話神楽坂優花①
(相変わらずお寝坊助さんなんだから…♪)
私はベッドでスヤスヤ眠る彼を起こさないように静かに近付いて行く…。
ベッド脇にそっと膝をつき、ベッドに頬杖を突きながら彼の寝顔を見つめる。ちょっとイタズラ心が芽生えて頬をツンツン♪ しちゃったりなんかしたりして…
「…んっ……すぅ…すぅ……」
「ふふっ…」
くすぐったかったのか頬に手が伸びて…頬を無意識に擦った後に寝返りをうつ彼…。 そんな彼が何だか可愛くて愛しくて笑みが零れてしまう…。 それに可愛いだけじゃなくてカッコいいんだけどね♪
それにしてもこうしていると…思いだすなぁ… あの時と今では状況が違うけど…
(…私をカッコよく助けてくれて…でもそのせいで…私のせいで豊和君は怪我を負ってしまって…私は入院して眠っている
「ねぇ…昨日は急に早退なんてしちゃったの?まさかまた誰かを助けたのかしら…?コレ以上私としては堕とさないで欲しいところなんだけどね…」
♢♢♢
そう…それは私が5歳の時の話だ…。お父さんはちょうどその時国会議員の選挙活動中だった。ライバルでもある候補者が今回はかなり手強いとか妨害が酷いとかマスコミがここぞとばかりに叩いてくるとか…そんな事を呟いていたのを今も微かに覚えている…。
まあ、その時にはすでに党内でも絶対的ポジションというかそういうのは得てはいたみたいだけどね…。
そんななか…元を辿れば私のわがままからそれは起こってしまう事になるのよね…。
「優花は今日遊園地にどうしても行きたいのっ!行きたいって言ったら行きたいのっ!!」
「何度も言ってるでしょっ?今は駄目なの。お願いだから分かってくれる?」
「駄目なんて絶対にイヤっ!優花は遊園地に行きたいったら行きたいっ!行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい!!友達のかなちゃんも遊園地にこの間行ったって自慢してたんだもん!パレードが楽しかったって!私もパレード見たいの!乗り物に乗りたいのっ!」
「…優花。だから今は駄目なの…。お父さんが大事な時だからね?お願いだからもう少し我慢してほしいの。もう少ししたらお父さんの時間が取れるから…そしたらお父さんと私と優花で遊園地に行こうね?」
「イヤイヤ!行くったら行くのっ!今すぐ行くーーーっ!!」
普段…そこまで我儘なんかを言った覚えはないんだけどね?言う子ではなかった筈なの…。自分で言うのもなんだけどね。
でも…その日だけは違ったの。
自分で自分を抑えきれなかった。
それはまるで遊園地へ行くという使命感に支配されて…遊園地へ行けと命令されたかの様だったの…。今も不思議に思わ…。二度とそういうのは味わいたくないんだけどね…。
あまりにも私が我儘を言ったからかお父さんが折れた。
「そうだなぁ…。優花がこんな風に言うなんて一年に一回あるかないかだろう?2人で行ってくればいいさ!流石にパパは行けないからね」
「ほ、ホントにパパっ!?」
「ああ」
「あなた…でも今は…」
「私の事は子供の要望とは関係のない事だ。ある意味大人の都合だしな」
「でも…今は本当に大事な大事な時ですし…それに…」
「ああ…アレかい?脅迫分の事かい?あんな脅迫文は今に始まった事ではないだろう?アレで何百通目だ?まあ、私は政治家だし、当然その政治をよく思わない人はいるだろう。思想も人それぞれ色々あるだろう。目指すものは最終的に同じだといいんだけどね…」
「………あなた」
「な~に。大丈夫だよ。信頼出来る者達を君達に付けるから…安心して優花を楽しませて来ておくれ。私の分もね」
「…分かったわ、あなた」
「いやったぁー♪やったぁー♪遊園地遊園地っ♪ママと遊園地だぁぁぁ!」
「もう…優花ったら。優花?お父さんにお礼は?」
「パパありがとう!優花はね?パパが大好きっ♡」
「はははっ…。優花に大好きって言われちゃったなぁ。パパも優花が大好きだぞ?」
「優花の方がパパの事大好きだもんっ♪」
「そうかそうか♪」
「あらあら…妬けるわね…ふふふ…」
そうそう…お父さんの事が大好きって言ってたんだっけ。今でも普通にお父さんの事は好きだけど、お父さん以上に大好きで大切な人が出来ちゃったのよね…。お父さんがお母さんと出会ってお母さんを好きになったように、お母さんがお父さんと出会ってお父さんを好きになったように、私も豊和君と出会って助けられて大好きになったの…。豊和君……。
はっ!?いけないいけない…。話の途中だったわね…。
と、とにかく私とお母さん、侍女のお姉さんと護衛の人達と一緒にその日のうちに遊園地に向かう事になったの。急いで遊園地に行く準備をして、高級車に乗り込んで、お父さんが見送ってくれるなか私達が乗り込んだ車が出発した。遠くなって小さくなっていくお父さんに車の中からその姿が見えなくなるまで手を振ってたわね…。
まあ、これはお父さんに聞いた話になるんだけど、私達が遊園地に向けて出発した後、しばらくしてから私の家を訪問した男の子がいたそうなの。
そう…それが彼…豊和君だったの…。
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