第7話通話
“──ブルブルブルブルッ…!”
「はい、神楽坂です」
『悠介さん?』
「…君か」
電話に着信があったのでそれが誰なのか確認しないまま音声で通話へ移行。電話を掛けてきたのは彼だった…。彼はまだ授業中の筈なんだが…? 一体何をやってるのやら…って、彼の事だからまた色々と動いていたんだろうな。
「コホン…君は今授業中じゃないのかね?」
『嗚呼~。ちょっと野暮用で早退しちゃいました…。まあ、俺の事は置いておいてもらって、そんな事よりも──』
「まあ、豊和君なら授業サボっても問題ないか。それに今回の件も豊和君が言い出した事だしな…。結末を一言で表すなら成功だ。彼女は勿論無事という事になる」
『ホントですかっ!?』
「流石に嘘は言わんさ。何かされる前に無事に助ける事が出来たよ。危ないところではあったみたいだけどね」
『そうですか…はぁ~~~とにかく間にあってくれて良かったぁ~』
「君が早退したという事は…君はまたその後のアフターケアか何かにでも奔走していたんだろ?今回助けた彼女の為にね…」
『ええ~と…』
「隠さなくてもいい。私と君との長い付き合いなんだから。流石にそれくらいは分かるさ」
彼とは娘が5歳の時からの付き合いになるからね。もう…あれから早十年近くか…。
『…そこまでしないと…本当に救けた意味がないような気がしてしまって…』
「うちの下の連中に君の爪の垢を煎じて飲ませたいと心から思うよ。そしたらもう少しマシになるのにね」
『いえ…そんな…』
「いや、本当にそう思うから口にしたんだ。お世辞じゃない」
『悠介さん…今回お力をお借りしてしまって申し上げにくいんですが…すぐにまたお願いするかも知れません…』
「また視えたのかい?」
『…はい』
「構わんよ。君が言ってくれたらいつでも私は力を貸すさ。私も娘を持つ身だしね…。今回あった事が娘の身に起こってたらと思うと気が気じゃないしね。あちらの親御さんもさぞかし心配した事だろう。それになにより豊和君には娘と私を助けてもらった大きな借りがあるしな」
『…俺は借りとは思っていませんよ?』
「いいや…借りさ。とてつもなく大きなね…。その借りを今すぐ返せというのなら優花か愛をもらってくれるとありがたいのだがね?」
『…優花と愛の意思に反してそれは決められませんし…なにより俺は嫌がられると思いますよ?』
「………はっ?」
ほ、本気で言ってるのか?
──と、言いたくなるが彼だから仕方ないな…。そういうのに疎いというか自分に疎いというか…。
優花よ…。ちゃんと伝えないといつまでも彼には気持ちは伝わらないぞ?好きなら好きと早くハッキリさせた方がいいぞ?親としては娘が失恋して哀しむところなんて見たくないしな…。
愛は…アレだけ露骨にアタックしてるんだがなぁ…。事実婚というのも今は一般的に知られてきたし、あの件も順調に進んでいる。愛ももう私の大事な娘だし…二人を娶ってくれるといいんだが……。
「とにかくだ。いつでも私は動けるし、動くから、私の力が必要ならすぐに言いたまえ…」
『はい、宜しくお願いします!』
「ああ…任せたまえ!」
『はい、ありがとうございました!』
「ああ」
通話を終え、優花の事もあり、ふと私は思う。そういえば…彼に助けられた子がいたとして…いや、実際に居るんだが…。とにかくそれを恩にも着せずに黙っているとする…。そうすると…それを知った女性はどうなると思うかね?
「…私なら…絶対に惚れると思うがね…」
「それは当然惚れると思いますよ?」
「──聞いてたのか?声に出てたか?まあ、そうなるよな…」
優花や愛がそうなってるしな。
「ガッツリ声に出してました!」
「…すまないな」
「いえいえ…彼カッコもいいし、稼いでますしね!」
「そんな風に頬を真っ赤に染められて言われも私が困るのだが?まさか君まで彼を狙ってるとか言わないだろうね?」
「お嬢様達が惚れているのを知ってるので流石に掻っ攫いはしませんよ?」
「…そうか」
「それは勿論。ですが、例の案件が成立したら狙ってもいいですよね?彼…あの歳にしては大人っぽいですし、先程も言いましたがカッコいいですしね!なによりお金も持ってますしね!」
私は思わずコメカミを押さえる…。娘達にライバルが増えるのを考えたら頭が痛くなってきたわっ!たぶん彼を狙う女性ももっと増えるだろしな。
「どうされました?」
「君のせいで頭がちょっとね…」
「それはそれは…」
「君のせいだからな?」
「私は彼の子種を頂くだけでも満足ですよ?」
「…はぁ~~~ えっと…幾つ違ったかな?君と彼は確か8つくらい…」
「そんなに違いませんよ!何言ってんです!?寝ぼけてますか!?お疲れですかっ!?それにですね!歳の差は関係ありませんからね!?正気ですか!?女性に対して歳の事をそんな風に口にするとは!奥様にもご報告して叱って頂かないと…」
「す、すまない…私が悪かった…」
「…次からは気をつけて下さいよ?」
「あ、ああ」
余計な事を口走ってしまったな。
「…それと唐突にすいません。話を変えるのですが宜しいですか?真面目なお話です」
「…何かね?」
「初夏さんでしたっけっ?彼女の方は全て丸く収まったみたいですよ?本来の家族の姿に戻れたようですね…」
「…だろうな」
「それと連中からも連絡があり、そちらも終わったそうです。抜かりなく終わったそうです」
「…分かった。それにしてもああいう輩はどこにでもいるし、次から次に湧いてくるもんだな?」
「…はい。おっしゃる通りかと…」
私は車窓から外の景色を眺める。外はすでに暗くなっており、他車のライトやテールランプ等、そして街の所々に灯された光が暗闇を照らしているのが視界に入ってくる。
「…光か」
不思議と私には豊和君が暗闇を照らす…そんな光のようにも見えるよ…。
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