第6話初夏日和⑤
アタシは女性の刑事さんに付き添われて家へと帰る事に…。 程なくして家に着いてしまった。
後は家の中へ入るだけなんだけど…。
手を玄関のノブに掛けたところで…
「どうかされましたか?」
「…流石にですね?入り辛くて…」
パパとママが家で私の事を待ってる事も心配してくれてる事もすでに聞いてはいる。でも今までの事からするとそれはホントに?と、思ってしまうんだ…。
また言葉すら交わしてもらえなかったら…
「大丈夫ですよ日和さん。先程お話した通りご両親ともに凄くご心配されておられましたよ?子供を心配しない親なんていませんよ。さぁ、ご両親が待ってます!」
「…うん。そう…だよね…よしっ!」
“カチャッ──”
意を決し…家の中に入ると、アタシに飛び付いてくる2つの影…。
「「日和ぃぃぃ!!」」
「…ぱ、パパっ!ママっ!!」
影はパパとママだった。パパとママはアタシをコレでもかという程強く抱き締めてくる…。アタシも負けじと二人を抱き締める。
「日和…本当に…本当にっ…無事で良かった」
「凄く…心配したのよ…?」
「ごめん…なさい。パパ…ママ…本当に…心配掛けて…ご、ごめん…うっ…ううっ…わぁぁぁぁぁん──────────────」
アタシは幼い子供の様に両親に包まれたままワンワンと泣いた。ずっと寂しかった事等の胸に抱いていた思いも不満もそのままの勢いで両親にぶつけた。
「ごめん…ごめんな…日和…」
「本当にごめなさい…そんなに…寂しい思いをさせてしまって…本当にごめなさい…」
女性の刑事さんは気を利かせてくれたのか、あるいはアタシを送り届けたて仕事が終わったからか…とにかくその場を後にしていた…。
♢♢♢
3人とも落ち着いてからリビングへと移動して事のあらましというか、何があったか等を改めて話し合う事にしたんだ。両親には大方説明されているとあの女性刑事さんからは聞いている。だから当然あの件も知っているだろう…。アタシからも話しないとね…。
テーブルを親子3人で囲み──
こんな時に不謹慎だけど思ってしまう。こんな風にテーブルを家族で囲むのはいつ以来だろうか。ずっとこういう風にしたかったと嬉しくなってしまう。
「──さて…話は全て先程の刑事さんから聞いているよ…日和」
とにかくそんな風にテーブルにみんな着いてから一番最初に口を開いたのはパパだった…。
「なんでそんな事をしでかしたのかも聞いている」
うん。そりゃあそうだよね。
「どんな理由があろうとも…万引きは悪い事だと、犯罪だと分かってるか?全ては日和がそんな事をしなければ脅される事もなかった…それは分かってるかい…?」
「…うん。分かってる。アタシが馬鹿だっただけ…。言い訳はしない…許されない事をしてしまったのはアタシだもん…」
「そうか…その場に立ちなさい…日和」
「…うん」
パパがアタシの目の前に立つ。パパが右手を振り上げた。叩かれるのは当然だと思い目を瞑り衝撃を待つ…。
“パシィィィーン──”
「っ…!?」
肌を叩いた音がリビングに響き渡る。
(??? あ、あれ…痛っ…くない…?)
そ──っと、目を開いてみるとパパは自分で自分の頬を強く叩いた事が分かった…。だって手形がくっきりと頬に刻まれいて赤く染まっているのがハッキリと見えるから。
「な、なんで…?」
「すまなかったな…日和…本当に寂しい思いをさせてしまった…。これは父さんへの戒めだ…。日和を決して蔑ろにしない為のな。二度と日和を一人にしない。これからは…いや、今日からはもっと家族で過ごす時間を増やしていくからパパをどうか許して欲しい」
「っ…パパ…」
「日和…。ママからももう一度謝らせて…?本当にごめんね、日和。ママも約束するからね?日和に一人寂しくご飯を食べたりさせないように…もっと話をするように…だから…ママを許して…」
「まっ、ママ…あ、アタシも…ごめんなさい…もっと…2人にちゃんと…思ってる事を伝えれば良かった…」
「いや…父さん達が悪かったんだ。日和との…大事な娘との時間を取らなかったのだから…それに日和は話掛けてくれたじゃないか…」
「パパの言う通りよ、日和。私達が悪かったの。仕事仕事って…日和とロクに会話もしないで…寂しい思いをさせちゃったんだから…でも…これからはパパも言ったけど、しっかりとこうして家族だけの時間をとるからね?」
「…ほ、ホントに?」
「ああ。パパはな…会社を辞めたんだ。ママもだ」
「…えっ?えっ?そ、それって…大丈夫なわけっ!?もしかして…アタシのせいで…?」
「違うわよ?日和のせいじゃないの。だから心配しないでね?それにね?もう次の仕事も決まってるのよ。前の仕事場よりも高待遇で休みも多いしね。それにそれだけじゃないのよ?勤務時間だって長くないの。朝9時から夕方の17時までなの。だからこれからは昔みたいに私が夕飯も作るし、日和が学校を終えて帰ってくる頃にはママ達も帰るからね?」
「…まあ、これを言うとな…言い訳に聞こえるかも知れないんだが…以前の私とママは日和の事を何故だか考えられなかったんだ。自分の事だけで余裕がなかったのかも知れない。今…思い返すと日和にあんなに寂しい表情をさせていたって分かるのに考えられなかったんだ。すまない…これは本当に言い訳にしかなってないな…」
「ううん…ううん…構わない…構わないよ。それに…これからは…違うんでしょっ?」
「「勿論それは約束する!!」」
パパとママの声が重なる。アタシを見て話してくれている。その瞳が物語っている。嘘じゃいなと…。
「うん♪約束だよ!」
アタシはパパとママにまた抱き合って…それからママが久し振りに作ってくれた手料理に舌鼓を打つ事になった。ママの味…。おふくろの味とも言うんだっけっ?とにかくアタシの胃袋がママの手料理に喜んでいる。
「あっ…それとな、日和?」
「どうかした?」
「明日から日和は1週間学校が休みになるだろう?」
「えっ…あっ…うん」
事件は表沙汰にはならないみたいなんだけど…あんな事があったから1週間、アタシの精神面等を考慮して学校を休む事になったんだよね。そうした方がいいと刑事さんから言われたそうだ。アタシ自身そう聞いている。心の傷を休める為だって…。
「それで急なんだが明日から旅行に行く事にしたぞ?」
「勿論家族3人でね♪」
「えっ?アタシは嬉しいけど…か、会社はっ!?新しく決まった会社は大丈夫なの!?」
「心配しなくても大丈夫だぞ日和!新しい職場の社長さんから言われているんだ。今迄休まず働いた分、1週間程家族で旅行にでも行って羽を伸ばして来たらいいとね。家族で過ごす時間を大切にしてからで遅くないってな!」
「ホントにっ!?ヤッタァー!」
家族で旅行なんて何十年ぶりかな?アタシが幼い時以来だよね。
「しかもだ!有給扱いなんだぞ!?だいたい半年以上働いてから有給ってつくんだが…あっ、有給っていうのは簡単に説明するとだな、届けを出せば会社を休んでもその日働いた事になる事でな?」
「それくらいアタシだって知ってるんだけどっ!?」
「日和!写真もビデオもたくさん撮るわよ♪久しくそういうのも撮っていないしね!」
「うん!うん!」
「ホント…社長はというか…彼はお前と同じ歳なんだが…本当にしっかりしていて、もう会社まで経営しているんだぞ?しかも話を聞いたら同じクラスというじゃないか!」
「…彼?同じクラス?」
そういえば…あの議員のオッサンも彼って言ってたのよね──
「あなた!何をベラベラ…と…って、いつの間にそんなにたくさんお酒を飲んだのよ!?お酒を飲んだらあなたは昔から饒舌になるでしょう!?」
「い、いいだろ?こういう時くらい…」
「全く…もう…この人は……そ、そうだった!ほ、ほら、これを見てみて日和っ!」
「んなっ!?ここここ、コレって…あ、アタシが好きなバンドのライブチケットじゃん!?」
「それね?明後日のライブチケットなんだけど、旅行の最中にライブにも行く事にしたわけよ!私と日和の二人でね!!」
「父さんは二人がライブに行ってる間は旅館で飲んで待ってるからな?絶対に人がいっぱいいるだろうし、人混みは好きじゃないしな」
「あなたはこういうの嫌いだものね?」
「ああ…」
「パパも来たらいいのにっ!最高なんだよ、このバンドっ!!」
「…いや、パパは飲む方が好きだし──」
「そっかぁ…残念」
「ママと楽しんできたらいいさ」
「うん。分かった。ところで…ママ」
「うん?」
「アタシは誤魔化されないよ?」
「…えっ?」
「さっきの話だよ。彼って誰?お父さんの話ではその彼が社長なんだよね?しかも彼ってアタシのクラスメイトなんでしょ?どういう事か説明して?家族の間に隠し事はしないよね?」
「はぁ~~~ パパが口を滑らせるから…」
「いやいや…構わないだろ?」
「…分かったわ。でも内緒よ?実は────」
しばらく考えこんでいたママだったけど観念したのか彼について話してくれた。そしてアタシは全てを聞いたの。
アタシ達を助けてくれた事を……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます