第5話初夏日和④

男の指がブラに触れて──


  おっぱいが露わになるっ!? そう思ったアタシは涙で溢れる目を思わず強く瞑った…そうするしかなかったからだ。せめて見ないように…




 ──その瞬間だった…。




“ガシャァーン! !コロコロコロっ──”


「な、なんだっ!?急に家の窓が割れっ…」   



“バシュッッ!シュォォォォォーッ!!”


「なんだっなんだ!?けっ、煙がっ!?ゲホッゲホッ…ゲボッ…も、モロに煙を吸い込んでっ…!!ほ、ホントになんなんだよ!?一体全体どうなって…!?ゲホッゲホッ!なんだ…!?め、目がっ!?目が痛いっ!?俺の目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁあ!?!?!?」



「突入──っ!!」


 な…何が…起こっているの!?窓ガラスか何かが割れた音がしたような気がしたけど…。それに…何かが床を転がるような音…?それからそれから変な匂いがする…?咄嗟にあまりこの変なニオイを吸い込みたくないと思い、呼吸の回数を減らした。どうせアタシは鼻からしか息ができねーし…。


 そんななか…ハッキリと聞こえたんだ…。


 アタシを縛った男の声とは違う声が…。男の悲鳴みたいなものが…それに何かがまた壊れる音がして…バタバタバタ──とコチラへと向かって走ってくる幾つもの足音が…。


「くそっ…くそっ!ホント…っ…な、何が起こって…ごほっ…!?」


「「「「「動くなっ!!」」」」」




「な、何だよ、お前等っ!?ひ、人の家勝手に上がってっ…グエッ…」


「被疑者確保ーっ!」


「被害者も無事なようです!!」


 アタシの元に人が近付いて来る気配がする。


「我々は警察です。どうかそのまま目は開けずにいてください。今からガムテープを剥がしたらマスクを装着させますのでそれからいつも通りの呼吸をして下さい。いいですか?」


 警察?



 アタシ…助かったの…?



 ううっ──



 言われた通りにしているとマスクをさっと着けてくれる。それから…アタシは普通に呼吸を開始する。体と腕や足に縛られていた縄もすぐに切って外してくれた。


 そして…アタシは警察の人に抱えられる様に支えられながら家の外へと連れ出された。家の外に出るとマスクを外してくれる警察の人…。 ドラマでよく見かける様に羽織るものを私に羽織らせてくれる。アタシがその場に座り込むと同時に話し掛けて来たのは女性の刑事…。


「どこか不快感や痛いところはありませんか?何もされていませんか?」


「い、今の所痛いところはないです…ブラウスは破られたけど…何もまだされてないです…」


「分かりました。もう大丈夫ですからね?私が傍に居ますので何かあったらすぐに言って下さいね?」


「…はい」


 アタシ…ホントに助かったんだ…。安心すると同時にまた涙が溢れてくる…。



「クソッタレ!離せっ!離せってんだろ!くそ、体の至る所が痛ぇーしよぅ…気持ち悪いしよぉ~!くそくそっ!コイツ等離しやがれって言ってんのにっ!」


「うるさい!黙って歩けっ!」


 安堵しているアタシの涙で滲む視界に入って来たのはアイツだ。アタシを犯そうとした男だった…。男は後ろ手に手錠を掛けられていて、必死にもがき抵抗しているが、まるで連れ去られた宇宙人みたいに力任せに引っ張られながらパトカーへと連行されて行くのがみてとれる。


 男はパトカーに無造作に投げ込まれるように乗せられると、男を乗せたパトカーがその場を後にして走り去っていく…。


「っ…」


 ざまぁーみろ…そう大きな声で言いたかった…けど…言えなかった…。男がパトカーに連れ去られた事でようやく本当の意味で安堵できたからだと思う。それに…元を正せば全てアタシが招いた事であり悪い事を自覚しているのもある…。



「──君が…初夏日和さんだね?」



 そんなアタシに話し掛けて来たのはスーツを着た中年の男性だった。私はコクンと小さく首を縦に振る。 このオッサンの顔…何処かで見た様な気がするんだけど…?どこで見たんだっけ…?



「悪いが君は少し席を外してくれるかい?」


 中年の男性に言われて女性の刑事はその場から離れて行く。少しだけ怖くなり辺りを見渡してみると周りには警察官の人達がいっぱいいる。声を上げれば気付いてもらえる位置に人が居るのが分かって安心したアタシはとりあえずそのおっさんの話に耳を傾ける事にした…。


「さて…私の名前は神楽坂悠介かぐらざかゆうすけ。この国の国会議員をしているんだが…。知ってるかい?そうか…知ってるならいいんだ…。なので、あまり警戒しないでもらえると嬉しいかな?まあ、大変な目にあったばかりなので無茶かも知れないけど、気楽に話をしたいと思っているんだが…どうだい?いいかな?」



「は、はいっ!?」  


 ど、道理で…。なんとなくおっさんの顔に憶えがあったのはテレビで見た事があったからだ。でも…どうして…?何故そんな人がここに居てアタシに話掛けてきてるんだ???


「ふむっ?どうやら君は私がここに居る事がまず不思議そうだね?」


「ええと…はい…」


「そりゃあそうだよね。こんな事があったんだ。君も早くゆっくりしたいだろうから…単刀直入に言ってしまおうか…。君を助ける様に警察に報せたのも、そしてその警察を動かしたのも私だからだよ」


「はっ? なんで?」


?…か…。まあ、


「は、はぁ…」


 私も聞きたいってどういう事なんだよ…。こおっさん訳が分からんぞ?


「いかんいかん。とにかくだ。君があの男に脅された事も男についてくるように言われた事も、男の後をついて行った所も全て街の防犯カメラにしっかりと映っていたんだよね。それを確認したのが私だから警察に連絡したんだ。だから私がいる。ここまではいいかい?」


「…は、はい」


 はいと返事してしまったものの…なんでこの人がそれを確認できたんだろうか?



「それで…脅される原因となった君が仕出かしてしまった万引きについてなんだがね…?」


“ドクン──”


 その言葉を聞いた瞬間アタシの心臓が大きく跳ね上がる…。 アタシが万引きした事を…犯罪を犯してしまった事もおっさんは知っているんだ…。アタシも捕まってしまうのだろうか…。  


「あ、あの…それは…」


「まあ、そもそもの話になるんだけどね?君は万引きをしてないよ?だから犯罪を犯していないんだ」



「……………はっ?」




 このオッサン…なんてっ!?なんて言ったっ!?万引きを…犯罪を犯してないって言った…??あ、アタシは間違いなくこの手で…。


「君はね??」



 アタシはポカーンと開いた口が塞がらない…。


 いやいやいや…何をっ!?


 待て待て待て待て…誰が!?何で!?何の為に!?なんでアタシが商品を盗むと分かっていたんだ!?


「それから君を我が物にしようとした禄でもないあの男についてだが…もうあの男には会うことはないので心配しなくていいよ…。二度と会う事はないからね…」


「…あ、会う事はない…?」


 それって…


「議員には色々とあるという事だ。勿論警察にもね…。まあ、その辺りのそれを君が深く知る事はオススメしないがね…」


 そんな事を言われたら首をブンブンと縦に振るしか出来ない…。たぶん…アタシが思った通りの恐ろしい事になるんだろうと勝手に予想する。同時にアタシはさっきまで抱いていた疑問なんかも全てどこかへと追いやってしまった。


「とにかくそういう事だ。私からは以上だ。怖い思いをしたんだ。しばらくはゆっくりと休むといいよ」



 神楽坂という議員のオッサンはそれだけ言うと踵を返してその場を離れていく。それを見て離れた所にいた先程の女性刑事がこっちに来るのが見えた。


 そしてふとオッサンが足を停め…こちらを見る事なくアタシに背を向けたままこんな言葉を口にしたんだ。


「言うまでもない事だが…もう一つだけいいかい?君はもう分かってるよね?何が悪い事なのか?それはしてはいけない事だったと…」


「…はい。あんな事…万引きなんて…どんな事があってもろ二度と犯罪なんてしないっ…」


「…良かった…それを聞いて安心したよ。うちの娘達がそんな事をしてしまったら…私は娘のお尻を軽く百回は叩いてるだろうけどね。当然だけどそれだけでは済ませないが…なんてね…」


 お、お尻を百回もっ!?それを聞いた瞬間、ゾッとしてアタシのお尻が“ヒュン”って縮こまったよっ…。 オッサンはというと、そんなアタシを見てないはずなのにそのまま笑いながらその場を後にした。


 アタシはというと…その後、女性刑事に連れられて家へと帰る事になったんだよね…。正直この後の事を考えると…怖いけどね…。






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