第3話初夏日和②

 万引きをした翌日の事だ…。なんて事をしてしまったんだろうという後悔がアタシの胸を埋め尽くしていた。 学校へと向かうもののその足取りは重い…。


「…どうせ学校行ってもつまんねえーしっ…サボっかなぁ~」


 学校の校舎の屋上あたりがアタシの視界に遠目に入ってきた時後ろから肩に手を置かれた。

ダチかっ?


「よぉ~!待ってたぜ巨乳ちゃ~ん♡」


 そう言いながらアタシの肩に手を置いたのは見知らぬ金髪の若い男だった。  


「何アタシに触れてんのっ?」


「うん?ああ…悪い悪い…肩に触れたのは許してくれよ?」


 何、ナンパ?辺りを見渡してみると人気ひとけが無い事に今更ながらに気がついた…。サボろうかと考えていた為に裏道をゆったりと歩いてたのが裏目に出てしまったのだ。しくったなと後悔する。


 男が少し離れたのでその男に改めて視線を向けてみる。


『ホント禄でもねぇなコイツ』


  男の格好は上半身は派手なアロハシャツ、下半身はダボッっとしたこれまた派手なズボンを履いていて、胸元ははだけている。はだけたその胸元からはアクセサリーも垣間見える。

 


 超ダサい…。

 


 それに格好だけじゃなくて、口調もなんだかチャラいんだよねぇ…アタシを見る目つきは非常にキショい。アタシのつま先から頭のテッペンまでをまるで舐める様な値踏みする様なそんな視線を感じる。


 アタシとしては非常に不愉快だ。


 それに…制服姿のアタシを見たら普通分かるよね?華の女子高生よアタシ…。そんな女子高生のアタシに向かって巨乳ちゃんって馬鹿なのコイツ? 警察案件だろうに…。


「アタシあそこに通う高校生なんだけどっ?何、アンタ犯罪者になりたい訳っ?」


「おいおい。高校生なのは知ってるさ。最近の高校生は声を掛けただけで犯罪者扱いになるのかよ?」  


「当たり前でしょっ!?しかも巨乳ちゃんなんて言った日には即逮捕だろ!」


 アタシは当たり前でしょ?と、言ってやったうえで、こんなの相手にしてられないとばかりに男を無視して歩きだした…ところが…


「それじゃあよぅ…万引きはどうなんだ?即逮捕だろ?」


 万引きと言った男の言葉に足を止める…。足が勝手に止まったと言った方がいいかも知れない。


「万引きは犯罪だろ?(ニヤニヤニヤ…)」


 何でそれを…!?い、いや…コイツが知ってる訳なんてぇ… アタシは男を睨みつける。男はそんなアタシの視線なんて気にしてもおらず、アタシを見てニヤニヤしてやがるだけ…。


「…な、何の事を言ってるか分かんな──」


「あれ~~ぇ?しらばっくれるわけぇ?しゃあねぇな。コレを見てみなよ?コレ見たら態度変えてくれるよなぁ?」


 男は携帯を取り出し、何やら操作してから画面をコチラに向けた。


「っ!?なっ、何で…アンタが…そんな…」


「映ってるしょっ?しっかり巨乳ちゃんの犯行現場の様子がっ♪昨日何をしたのかって事がさぁ~~~」


 アタシが昨日万引きした様子がしっかりと携帯画面には映っていた…。


 足が震える…。


 心臓がまた早鐘を打ちだした…。


 昨日アタシが起こしてしまった過ち…。 男を睨みつけていたアタシは男から視線を外し顔も逸らした。さっきと違い強気に出れなくなってしまった。


「…な、何が目的っ…!?」


 そう聞くだけで…声を搾り出すだけで精一杯だった…。


「ちぃ~~っとさぁ~ 俺に付き合ってくれるだけでこの事は黙っててあげるし、なんなら万引きの件は許してあげるぜっ☆」


「…イヤって…言ったら?」


「そりゃあ警察にコレを提出するに決まってんだろ?」


 警察…警察か…。


 ドラマみたいに取り調べを受けて…昨日思ったみたいにアタシは未成年だから、絶対に警察から親に連絡っていくよね?


 そしたら…


 …流石にアタシの目を顔をちゃんと見て、話してくれるかな?


 馬鹿っ…!アイツ等がそんな事するわけないじゃんかぁー!


「か、勝手にっ…」


 すればいいでしょっ? そう言葉を口にするつもりが…


「親は泣くだろうな~?せっかくこんなにいい高校に入ったつぅ~のによぉ…。巨乳ちゃんが馬鹿な事したせいで退学♪俺なら縁切って勘当しちゃうね♪両親も恥ずかしいだろうな。こんな子供を生んでしまって…」


 アタシの言葉は男の言葉に遮られ、男の言葉に声が出なくなった。    


 えっ?  


 男はなんて言った?口にした?縁を切る?



 誰ど誰が…?アタシと両親が…?



 勘当って…?


 ただでさえ…会って話するのも顔も見ないのに…?一言二言さえロクに話せないのに?これ以上そんな事になったら…アタシは…


「──のっ?」


「あん?」


「どうすれば…それ…消してくれるの?」


「コレだけ消しても意味はないよ巨乳ちゃん?しっかりバックアップしてるしね☆」


「だから…どうすれば全部消してくれるのか聞いてんだろっ!!」


「お~~~ 怖い怖い…。そんな怒んなって?なっ?なっ?」


「は、早くどうすれはいいか言えよっ!」


「なら、言っちゃうよ?言うからな?とりあえず俺に付いてきなよ?そっちに車停めてあっからよぉ」


「はっ?車?」


「な~に、心配しなくて大丈夫だって♪車を走らせる時は表通りを行くしさっ♪俺の家のパソコンにコレのデータが入ってるからよっ!お前も俺が消したのを直に見ないと安心出来ないだろ?それに俺の家は車ですぐだしなっ!そんなに時間かかんねぇーからよぅ」


 男がまたアタシに向かって携帯をフリフリしながらわざと万引きシーンをチラつかせている…。


「…車に案内しろよ」


「おう♪任せろ!付いてこいよっ☆こっちだ、こっち♪な~に…すぐ終わるからよぅ!ちょっと話するだけだしな!」


 アタシは男の後方をついて行く…。男か言った通り歩いて間もなく車があった。男の車だ。


「良い車だろ?」


「車なんか分かんねぇよ」


「あっそう…」

  


 男が助手席を開けるので男の言うまま車に乗り込んだ。男はアタシを乗せると運転席にいそいそとかけのりエンジンをかける。


「どうよ?いい音だと思わねぇ!?」


「…うるさいだけだろ」


「ホント車に興味ないんだな?」


「いいから出せよ」  


「はいよ(もうすぐ良い音をお前から奏でてやるかな?くくくっ…)」

 




“ブォォォォォォォンンン!!!”




 わざと車のエンジンをもう一度吹かせた後で男は車を走らせた… 。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る