第10話 怪談

 アリは買い物を終え、家に戻る途中で葛城と明日香に向かって言った。「これから夕食の準備をするつもりなんだけど、君たちも手伝ってくれる?」


 葛城は「もちろん、何を作るの?」と興味を持った。


 アリは微笑んで、「地元の食材を使ったタジンを作る予定だ。料理をしながら、もっとモロッコの文化を学べるよ」と答えた。


 明日香は嬉しそうに、「それは楽しそう!私も手伝う!」と意気込んだ。


 アリは彼らを家に招き入れ、厨房で食材を取り出し始めた。新鮮な野菜やスパイスが並ぶ中で、アリは「料理は心を込めることが大事なんだ。楽しみながらやろう」と伝えた。


 葛城と明日香は、アリの指導のもと、食材を切ったり混ぜたりしながら、笑い合ったり話し合ったりした。その過程で、彼らはますます親密になり、心温まるひとときを過ごした。


 アリが料理を進める中、外の雷雨も徐々に収まっていった。窓の外を見ると、暗い雲が少しずつ晴れ間を見せ始め、雨音も弱まっていた。


「雷雨が落ち着いてきたね」葛城が窓の外を眺めながら言った。


 明日香も同意し、「これで外に出やすくなるね。お天気も良くなりそうだ」と微笑んだ。


 アリは料理を続けながら、「自然の力を感じるのもモロッコの魅力だ。雨が降ると、土の香りが漂い、また特別な風景になるんだ」と話した。


 彼らは料理の香りと共に、外の変わりゆく景色を楽しみながら、穏やかな時間を過ごした。雷雨の後の静けさは、心を落ち着かせ、次の冒険に向けたエネルギーを充電するひとときとなった。


 その時、アリがキッチンで料理をしていると、外から小さな犬が現れた。犬は尻尾を振りながら、葛城と明日香に近づいてきた。


「かわいい犬だね!」明日香が目を輝かせながら言った。犬は二人の周りをぐるぐる回り、懐いている様子だった。


 葛城は犬を優しく撫で、「お腹が空いてるのかな?」と話しかけた。犬は嬉しそうに吠え、さらに近づいてくる。


 アリも料理の手を止めて振り返り、「ああ、あの子は近所の犬だ。時々、家に遊びに来るんだ」と微笑んだ。


 犬はアリにも近づき、彼の足元でくるくる回った。アリは笑って、「おやつをあげようか」と言い、キッチンの隅から犬用のおやつを取り出した。


 こうして、アリが犬におやつを与えると、犬は喜んで食べ始め、再び尻尾を振りながら元気に跳ね回った。葛城と明日香もその光景を楽しみ、心が和むひとときを過ごした。


 料理の準備が進む中、アリはふと「この地域には不思議な伝説があるんだ」と切り出した。葛城と明日香は興味津々で耳を傾けた。


「昔、この村の近くには不気味な廃屋があって、夜になると奇妙な声が聞こえるという噂があった。誰もその家には近づこうとしなかった」アリが語る。


「その廃屋には、昔、家族が住んでいて、ある晩、全員が姿を消してしまったと言われている。その後、誰も中を見ようとはしなかったが、今でも時折、家の前を通ると何かを感じる人がいる」アリは真剣な表情で続けた。


「ある若者が興味を持って、その廃屋に入ってみると、薄暗い中で何かが動いているのを見た。彼は恐怖に駆られて逃げ出し、二度とその場所には近づかなかったという」アリの声には緊張感が漂った。


 明日香はドキドキしながら、「本当にそんなことがあったの?」と尋ねた。


「伝説だから、真偽は分からないが、この土地には古くからの物語がたくさんある。私たちもそうした話を知ることで、文化を理解することができるんだ」アリは微笑みながら締めくくった。


 葛城と明日香は、その不気味な話に胸が高鳴りつつも、モロッコの文化や歴史の深さを感じるひとときを楽しんだ。


 アリが料理を終えると、キッチンには豊かな香りが漂っていた。タジンが出来上がり、色とりどりの野菜と肉が美しく盛り付けられていた。


「さあ、夕食の時間だよ!」アリが笑顔でテーブルを用意し、葛城と明日香を招いた。


 三人はテーブルに座り、アリが「いただきます!」と言うと、みんなが一斉に手を合わせた。タジンは熱々で、スパイスの香りが食欲をそそる。


「うん、美味しい!」葛城が一口食べると、その味わいに感動した。明日香も頷き、「スパイスのバランスが絶妙だね!」と喜んだ。


 アリは嬉しそうに笑いながら、「モロッコ料理の魅力は、こうしたスパイスの使い方なんだ。食事を通じて、みんなが集まることが大切だよ」と教えてくれた。


 三人は料理を楽しみながら、今日の出来事やこれからの冒険について話し合った。夕食を通じて、彼らの絆はさらに深まっていった。

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