第8話 野生の厳しさ

 藤堂は撤退した後、仲間たちと共に街へ戻った。そこで偶然、彼が元刑事であることが話題になり、周囲の人々が彼を絶賛した。


「君が元刑事なら、捜査に参加してほしい!」とある警官が声をかけてきた。「最近、ここで起こる事件に対処するため、専門的な知識が必要なんだ」


 藤堂は少し戸惑いながらも、「分かりました。協力します」と答えた。彼の経験が、街の治安を守るために役立つことを感じたのだ。


 葛城と明日香は、藤堂の決断を尊重し、しばらく彼と別れることにした。「君の力が必要だ。頑張って!」葛城が励ます。


「すぐに戻るから」藤堂は仲間に笑顔を向け、捜査に参加するために立ち去った。


 葛城と明日香は、藤堂の不在を感じながらも、ウイルスの魔女に再挑戦するために準備を進めることにした。彼らは藤堂の力を信じて、次の冒険へと向かうのだった。

  

 葛城と明日香は、藤堂が捜査に参加している間に、昼食を取るため市場へ向かうことにした。市場は賑やかで、香辛料や新鮮な野菜、フルーツが並んでいる。


「ここは本当に活気があるね」明日香が目を輝かせながら言った。


 葛城は周囲を見回し、「この中で何を食べようか。タジンやクスクスもいいけど、屋台のサンドイッチも美味しいらしい」と提案した。


 二人は市場を歩きながら、気になる食べ物を見つけては立ち止まり、食材の香りに魅了されていた。最終的に、明日香は「このタジン、絶対に美味しいと思う!」と言い、葛城も同意した。


 彼らはタジンを注文し、温かい料理を楽しみながら、藤堂の捜査の行方や、次の魔女との戦いについて話し合った。昼食を通じて、仲間の絆を深めるひとときを過ごしていた。

 

 葛城と明日香が市場でタジンを楽しんでいると、現地の人が近づいてきた。彼は親しげに話しかけてきた。


「君たちがモロッコに来ているのは素晴らしいことだ。この国には豊かな歴史がある」彼は笑顔で続けた。「モロッコは多くの文化が交わる場所で、古代からの交易路が発展してきた」


 彼はさらに、モロッコの独立やフランスの植民地時代についても触れ、「1956年に独立を果たした後、私たちは自国の文化や伝統を守ることに努めています」と話した。


「特に、マラケシュはその歴史的な街並みや文化が色濃く残っていて、観光客にとっても魅力的な場所なんです」と語る彼の目は輝いていた。


 葛城と明日香は興味津々で耳を傾け、歴史的な背景が自分たちの冒険にどのように影響するのかを考えながら、話を楽しんだ。地元の人との交流を通じて、モロッコの深い文化を理解する良い機会となった。


 昼食を終えた葛城と明日香は、市場を後にして観光名所を巡るために歩き出した。しばらくすると、周囲の雰囲気が変わり、自然に囲まれたエリアに足を踏み入れた。


 その時、突然、草むらから猛獣のような獣が飛び出してきた。葛城はすぐに身構え、明日香も驚きながら後ずさりした。


「何だ、あれは…?」葛城が問いかけると、獣は鋭い牙を見せながら威嚇してきた。


 明日香は冷静に、「逃げるべきだ!でも、近くに障害物があるから、うまく動けば逃げられるかも」と提案する。


 葛城は、周囲を見回し、近くの岩陰に隠れることにした。二人は一斉に走り出し、獣の注意を引きながら、岩陰へと身を隠した。


 獣が興味を失うと、二人は息を整え、無事にその場を離れることができた。「危なかった…」葛城が安堵の息を吐く。


 明日香は心配そうに言った。「やっぱり野生生物には注意が必要だね。次はもっと気を付けよう」


 二人は、この出来事を教訓として、さらに気を引き締めながら冒険を続けることにした。

 

 葛城と明日香は、岩陰から安全を確認した後、再び市場の方へ向かった。途中、出店で地元の人が野生生物について話しているのを耳にした。


 好奇心から近づくと、出店の主人が言った。「最近、山の方でジャッカルを見かけることが多い。特に人間の食べ物に興味を示すことがあるんだ」


「ジャッカル…?」葛城が尋ねると、主人は頷いた。


「そう。彼らは非常に賢く、群れで行動することが多い。特に食べ物があれば、近づいてくることがあるから、注意が必要だよ。」と続けた。


 明日香は、「それなら、私たちも野生生物の行動に気を付けなければいけないね」と言った。


 主人は「モロッコの自然は美しいが、やはり野生生物との距離を保つことが大切だ。特に食べ物を見せないようにして、あまり近づかないことが肝心さ」とアドバイスした。


 葛城と明日香は、その情報を心に留め、今後の行動に活かすことを決めた。これからの冒険に役立つ知識を得て、少し安心した二人は、次の目的地へと歩みを進めた。


 葛城と明日香が市場を後にしてしばらく歩いていると、突然空が暗くなり、激しい雨が降り始めた。雨は瞬く間に強くなり、視界が悪くなるほどだった。


「これはまずい、急いで避難しよう!」葛城が叫ぶと、周囲の人々も慌てて逃げ出していた。


 二人は市場の出店へと戻り、先ほどの主人の元へ向かった。「洪水が起きそうです!避難させてください!」明日香が頼んだ。


 主人は驚いた様子だったが、すぐに頷き、「うちに来なさい、急いで!」と家の方へ案内した。


 彼らは主人の家に到着し、すぐに扉を閉めた。外では激しい雨音と共に、川の水が増水し、洪水の危険が迫っているのを感じた。


「この家は安全だから、ここでしばらく待とう」

 主人が落ち着いた声で言った。


 葛城と明日香は、主人の家の中で雨が止むのを待ちながら、少し緊張した面持ちで過ごした。周囲の状況を見守りながら、自然の力の脅威を改めて感じることとなった。

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