第2話 大人げなかった
プイとすねて背中を向けた蓮をイグジストが追ってきた。
「侮辱されたと感じたのなら申し訳ない。私もハメを外しすぎたようだ」
立ち上がり、手や尻についた砂をはたいて落とした蓮は肩越しに振り返る。
護衛兵の前ですら躊躇なく謝罪してきたイグジストに蓮の鼓動が高鳴った。
「……わかったよ」
蓮は拳を握りしめた。結局こうしてこちらが折れる構図が出来上がってしまっている。
「俺も大人げなかったよ。ハイキングにでもピクニックにでも付き合うってやるよ」
「本当に?」
「今日は一日公務で、明日は休みなんだよな?」
「そうだ。それで前持ってする準備はいるか?」
「ピクニックは行き先で食べ物を調達したりするのはあんまりないな。アマカに頼んでおく」
「わかった。これで退屈な公務にも身が入る」
「大げさだな」
「私には友人がいないんだ」
友人がいない。
それを臆面もなく言い切ることができてしまう彼の純粋さには胸を打たれた。
「おにぎりって知ってるか?」
「さあ。聞いたことがない」
「日本じゃ外で食べる飯にはおぎにりがつきものだ。ピクニックっぽくないけど、せっかくだったら日本の弁当でも外で食べよう」
「そうか。それは楽しみだ」
亀裂が入りかけた関係を修復し、イグジストは安堵した顔で漣の前までやって来た。
「いつもいろいろ考えてくれてありがとう。お陰で三千年分の孤独から、やっと逃れられる気がするよ」
イグジストの両手が肩に乗り、片方の頬ずつキスをされた。
親愛の情を示す慣習が、今はなんだか切なく感じた。
イグジストが求めているのは友人であり、皇太子を産むべきオメガの妃のはずではなかったのか。
イグジストは護衛兵を前後左右に侍らせながら厩を出て行く。その時漣は、彼が広大な国土を治める皇帝だったと後になって気がついた。
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