第六章 命名

第1話 おもちゃ

 今朝は一段と機嫌の悪いルーシーが何度もいななき、首を振る。背中に乗った蓮を振り落とそうとするように。

 それでも必死に手綱を操り、散策道をルーシーに歩かせる。


「なかなか手慣れてきたようだ。君は運動神経が良いらしい」


 自分は悠々馬に乗りつつ笑んでいる。


「こんなんじゃ歩いた方が早くねえ?」

「目の前の困難から逃げてはならない。立ち向かえ」


 などと言うスパルタ教師の再来だ。

 ルーシーに前後左右揺さぶられ、手綱を引くだけで精一杯。ルーシーとは心が通じたはずじゃなかったのか。それともそんなに安直に心を開くタマではなかったのか。

 離宮に到着する頃には疲労困憊になっていた。


 離宮の厩でようやくルーシーから解放され、地面に下りると、イグジストが笑みこぼれた。


「よくやった。とりあえずルーシーから振り落とされずに済んだ快挙は認めよう」


 自分も馬から華麗に降り立つ。二頭の手綱は使用人が預かった。肩でぜいぜい息をする蓮にイグジストが手を差し伸べた。けれども漣はそれを無視して立ち上がる。

 

「俺はあんたのおもちゃじゃねえぞ」


 凄んだ蓮にイグジストが眉を上げた。


「そんなつもりは毛頭ないが」

「それじゃあ、どうしてルーシーなんかを呼んだんだ」

「彼女は君の馬だろう?」

「確かにそうは言ったけど」


 抗議の言葉も論破され、奥歯をギリリと噛むしかない。


「明日はハイキングに行きたいとか言っていたけれど、この通り俺は疲れ切ってて到底無理だ」


 子供のようにすねた漣にイグジストの顔色が不穏に変わる。


「それは……」

「アマカと二人で行ってこい」

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