第3話 左右に揺れる

 いつものように蓮の目が覚めるまで、添い寝をしてくれていたイグジストの毛皮が風になびいている。


「おはよう」


 イグジストは漣の頬をぺろりと舐めた。蓮は思わず首をすくめて「ひゃあ」と言う。


「急になんだよ」

「君の寝顔があまりにも可愛らしくてね。キスしたくなったんだ」

「今のがキスかよ。舐めたくせに」

「狼のキスさ」


 蓮が身体を起こすと、イグジストもウーンと伸びをした。じっとしていたせいならば申し訳なく思えてくる。


「あんた、やっぱり添い寝は苦痛じゃないのかよ」

「どうして?」

「身体が凝るだろ?」

「今の伸びは目覚めの伸びだよ。それだけだ」


 後ろ足で呑気に首の辺りを掻きながら、飄々とした口調で答えられ、蓮の心が左右に揺れる。それを言葉通りに受けとっていいのかどうかがわからない。

 

「朝食は何にする?」


 イグジストは毛皮を舐めて手入れをしている。


「昨日の夕飯の残りで済ませることが多いな」

「それならば、そうしよう。その前に私は人に戻りたい。夕べと同じように少しの間だけテントに入ってくれないか。ああ、それから私の服は表に出してくれ」

「わかった」


 狼から人間に戻る際、一度真っ裸な人間になるらしい。蓮はイグジストの服をテントの外に全部出して、自分はテントの中に素直にこもった。

 やっぱりどんな風に変化するのか見てみたい。

 だが、勝手にのぞき見するのはイグジストの信頼に対しての裏切りだ。蓮は彼に呆れられ、愛想をつかされることを恐れた自分に気がついた。


 「着替えたから出ておいで」


 との声かけがあり、もぞりと表に出ていくと、ジーンズに紺にポロシャツ姿の彼に戻っていた。


 

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