第2話 添い寝

漣はテントの中へと追いやられ、テントの外では衣擦れの音がする。

覗いてみたい気がするが、それでは『鶴の恩返し』になりかねない。

漣は大人しく待っていた。

すると、


「もういいよ。出て来なさい」


 という呼びかけがある。恐る恐るテントの入り口の布をはぐってみると、そこにはいつも通り銀の毛並みをふさふささせた白狼はくろうの彼がいた。


「ちょっと待って。今、ビニールシート敷くから」


 蓮はテントの前にブルーシートを広げた。

 すると、のそりとイグジストが腰を上げ、シートの上に鎮座した。

 

「さあ、おいで」


 イグジストはシートで横向きになり、片腕を大きく開く。いつもあの腕の中で爆睡してたのに、なぜだか今夜は恥ずかしい。

 君が来てからというもの私は皇帝ではなく、ひとりの人間になった気がするとか、君といると、自分がどれほど孤独だったのかも思い知るとか言われたからだ。


 自分はまだ何の返事もしていない。

 どう返事を返していいのかが、わからない。

 湊が降参とばかりに、ぱふっともふもふにダイブする。


 そんな湊の背中にイグジストのふかふかの腕が回される。

 温かさも腕の重さも心地よい。

 

「俺、施設育ちだろ?」

 

 軽く顔を傾け、湊がぼそりと言う。


「ガキの頃から就寝は時間通りに電気を消されて終わりだったから。寂しくなるんだ。無性にな」


 他の子供は母親に添い寝されて寝ているとだけ知っていた。


「俺だって、ありがとう」


 忍び泣く湊の背中を抱き寄せて、ぽふぽふの肉球であやすように叩かれる。

 孤独な魂が重なり合い、互いの体温で温め合う。

 膝を曲げて胎児のように小さくなった蓮は、森閑とした闇の中で静かに眠りに落ちていた。


 

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