第16話 キャンプでの調理

 蓮は収穫物を調理するため、簡易性のテーブルをテントの近くに設置した。

 俎板まないたを置き、ナイフを用意し、折り畳みのクーラーバッグから岩魚を取り出す。

 まだ跳ねている岩魚のエラの辺りにナイフを突き刺し、ナイフを回転させてエラを取り出す。次に腹の辺りにナイフを差し込み、腹を割って中身も取り出す。

 そうして下ごしらえを済ませた最後に先端が尖った棒を口から腹にかけて波打つように串刺しにした。


「火を起こそう」


 イグジストが釣りに夢中になっている間に集めた枯れ枝を積み、ライターで火を点ける。串刺しにした岩魚や小振りのアマゴに塩をふり、焚火の周囲にぐるりと刺した。


 すると、使いにやらせた少年が馬に乗り、麻袋を馬の背に乗せ、戻ってきた。


「アマカ様からのお届けです。キャンプでのお食事にとのことでした」

「キャンプでの食事に?」


 蓮は馬の背からおろした麻袋を開いて見た。

 ひとつずつ取り出してみると、パンやワイン、じゃがいも、ピーマン、にんじん、玉ねぎといった野菜と、油やバター、醬油や砂糖などの調味料が入っていた。

 調味料はこちらで用意できているが、バターやパンや野菜が届いたのはありがたい。

 おそらく魚料理に必要だと思われるものをチョイスしたのだろう。

 少年は、そのまま馬で返された。

 警護の傭兵も森のどこかで見ているはずだが、今は二人だけの時間として楽しもう。

 

「私にもさせてくれないか?」


 イグジストは興味津々といった目つきで申し出た。


「生の魚だぞ? どうせ生魚なんて触ったこともないんだろ? 気持ち悪くないのかよ」

「初めてだからこそ、やってみたい」


 好奇心旺盛な皇帝は手本を見せる漣の隣で難しい顔をしながらも、魚を折り畳むようにして串刺しを完成させた。


「これでいいのか? うまくいったか?」

「ああ、上手上手じょうずじょうず

「君といると何もかもが初めてばかりで面白い」


 イグジストは自分で作った岩魚の串刺しに塩をふり、焚火たきびの回りに突き立てた。


「パンでもいいけど。俺は飯盒炊飯はんごうすいはんで白飯焚くからな」

「飯盒炊飯?」

「これで白飯を炊くんだよ」


 蓮が見せた飯盒に、イグジストは釘付けだ。


「そんな鉄の箱で焚けるのか?」

「ああ、キャンプなら飯盒炊飯が鉄板だ。鉄で焚くから香ばしくて甘みも濃くなる」

「それなら私も食べてみたい」

「だったら二人分焚くからな」


 蓮は常備している白飯を二人分入れて、川の水で洗った。そこに携帯してきた真水を入れて焚火にかける。

 飯盒をしらないなんて、どうやらイグジストのキャンプの知識は皆無といっても良さそうだ。


「アマゴはどうする? 尺アマゴだから食べ応えがあるぞ」

「たとえば?」

「生で醤油をかけて食べる。バターとハーブでソテーする。燻製にする。オリーブオイルで作ったドレッシングでサラダにする」

「君のおすすめは?」

「白飯に合うのは、やっぱり刺身や塩焼きだけれど、それでも身が余るからソテーにするか、燻製くんせいにして持って帰ろう」

「燻製にもできるのか?」

「ああ、まずはアルミの鍋に桜のチップを敷いて網を乗せる。その網に切り身を乗せていぶせば一時間ぐらいで完成だ」

「それなら今夜は燻製も食べられる」

「ゆっくり燻せば、骨まで食べられるようになる。どうせキャンプで時間制限なんてないからな。残りは全部燻製にするか」


 漣はリュックサックから飯盒炊飯や燻製に使う道具を取り出した。

 こっちが照れ臭くなるほど意気揚々としたイグジストを見ていると、本当に外での遊びを知らないんだなと気の毒にさえなってくる。

 皇帝という地位にある者の身の安全を考えてのことだろうが、外に出るのはせいぜい乗馬ぐらいに過ぎないのではと感じるぐらいだ。

  

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