第15話 記念写真

「よし。もう、いいぞ」


 軍手をはめた手で釣り糸をたぐり寄せ、顔の前でぶら下げる。


「大物じゃねえか。しゃくアマゴだぞ」


 全長三十センチはあろうほどのアマゴを釣り上げたイグジストが興奮したように満面の笑顔になる。


「大物なのか?」

「ああ、普通のアマゴが十五センチぐらいだからな。倍はある」


 釣った魚は折り畳みのクーラーバッグを開いて水を張り、中に入れた。


「集中力や運動神経が悪ければ、竿の引きにも気がつけない。咄嗟にリールを巻けるだけの反射神経も必要だ。だから釣りはスポーツなんだよ」

「わかったよ。このスポーツはなかなか面白い。後で魚を食べる楽しみまでついてくる」


 童心にかえったような目をしたイグジストに喜んでもらえてよかったと、蓮は思う。


「写真を撮ろう。イグジスト殿下は庶民と同じように釣りを楽しまれるってな。好感度がぐっと上がるぞ」


 蓮は針を抜いたアマゴの尾を握らせて、顔の横にぶら下げさせると、何枚もシャッターを切る。ファインダー越しのイグジストは鼻の孔が膨らまんばかりに自慢気だ。

 それからもイグジストの釣りは続き、通常サイズのアマゴも岩魚も引き上げた。


「もう、それぐらいにしておけよ。二人分だけ釣れたら充分だろう?」

「わかった。むやみに獲ってはいけないな」


 ものわかりのいいイグジストだが、それでも未練がましい顔つきだ。


「また今度にすればいい」

「そうだな。釣りは私の趣味にすることにしよう」


 蓮が水気を拭きとった竿は折り畳まれて、蓮のリュックに収まった。

 だんだんと日も傾きかけていて、調理を開始するにはベストな時間帯になってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る