第14話 レクチャー

 不満げなイグジストを蓮は呼び寄せ、彼に竿を握らせた。


「いいか? あの浮きが上下したら魚がかかったことになる。それまで動かず、ずっと浮きを見ていることだな」

「退屈だ」

「そうでもないさ。ほら、見ろよ」


 早速引きがきた竿のロッドをイグジストに引かせてやる。


「もっと早く」


 イグジストに手を添えて、蓮は素早くロッドを巻いた。

 すると、弓なりにしなった竿が空を切り、魚がバチバチ跳ねながら岩場に落ちた。


「小物だな」


 漣は釣り竿の先端にぶら下がる川魚を引き寄せて、残念そうに呟いた。


岩魚いわなか」

「イワナ?」

「名前の通り、いつも岩場の陰に隠れているから岩魚だよ。きっと皇帝の食卓には上らない魚だな」

「食えるのか?」

「もちろん。後で俺が調理してやる」

「調理もするのか?」

「それがキャンプだ」


 蓮は再びフックに餌をつけ、今度は少し流れの速い川の中央辺りに投げ入れた。


「ほら、持ってろよ」

「流れが速くて、浮きが上下したのかどうかがわからない」

「それは竿の感触で判断するんだ。竿にピクリとした感触があれば釣れたか、餌をつついているかだ。そうしたら素早くロッドを巻け」

「高度な遊びだ」


 獲物を狩るのは人間の習性だ。

 岩魚が釣れたことで、その習性に火がついたようだった。

 川に半分靴をつけ、前のめりに竿を持つイグジストを少し下がらせ、引きを待つ。もう退屈だなんてほざいたヤツの顔ではなかった。

 

「おっと」


 思わず声が出たほどの竿のしなりに蓮もイグジストも浮足立った。

 

「ロッドを巻いて」


 指示した声が聞こえたの聞こえなかったのかわからないほど、イグジストはロッドを必死に巻いていた。高々と上がった竿は弓なりになる。


「そのまま、そのまま」


 蓮は今度は手を貸さず、指示するだけに留めていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る