第13話 安心

 イグジストに案内されたのは池の湖畔で、そこから流れる清流のほとりだった。

 倒れた巨木や、こけむした巨石が周囲にゴロゴロ転がっている原始的な光景だ。

 その岩の間を川の水が流れている。

 湖畔には、キャンプにベストな空き地も数か所あった。


「この辺にするか」


 蓮は担いできたリュックサックを下ろした。

 そして中からテント、寝袋、カンテラなどを取り出して、てきぱきテントをそこに張る。寝袋はひとつしかなかったが、夜でもそよ風が心地よい季節だ。寝袋はイグジストに渡し、自分はブランケットを体にかけて眠ればいい。

 

「あんた、釣りはしたことある?」

「ああ、釣りなら知っている。したことはないが」


 漣はいそいそと自分のリュックサックから折り畳み式の釣り竿と軍手を取り出した。


「だったら今日は釣りに決定。夜はテントでごろ寝する」

「外で寝るのか?」

「それがキャンプだ」

「アマカは夕飯時には戻ってくると思っている」

「それじゃあ、誰かに伝言しないと」

「ああ、そこの君」


 付き添いで来た側近の若い一人を呼び寄せる。


「私はキャンプで今夜一晩をここで過ごす。アマカにもそう伝えてくれ」

「畏まりました」


 彼は何も言い返しもせずイグジストに敬礼をして去っていく。蓮は、しつけの行き届いた犬のようだと感心した。夜は危ないから止めろなどとは忠告しない。


「さあ、行こう。湖から川に流れ込む岩場の辺りは餌も豊富で魚も多い」

 

 早速折り畳みの釣り竿を伸ばして岩場に落とし、引きを待つ。


「これのどこがアクティビティなんだ? ただ釣り竿を見ているだけじゃないか」

「釣りの醍醐味はそれだよ。頭を空っぽにして、浮きだけ見てればそれでいい」


 湖は木立に周囲を縁取られ、エメラルド色の水面を太陽が煌めかせている。聞こえてくるのは川のせせらぎの音と鳥の鳴き声。

 それだけだ。

 安心というのは、こういった感情なのだろうか。

 外界ではミサイルの打ち合いがなされているのに。自分は確かにそこにいたはずなのに。

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