第12話 今日は何して遊ぶ?

「今日はどうする?」

「そうだなぁ……」


 何をして遊ぶのか。

 こんなこと言われたのは小学生以来だと蓮は半ば呆れ、キラキラしたイグジストの目が愛らしく思えてくる。

 しばらく腕組みしたあと彼を見た。

 紺の地に白のピンストライプが入った三つ揃えのスーツを着こなした美丈夫が、わくわくした面持ちでこちらを見る。

 その隙なく着こなしたスーツを脱がしてみたくなる。


「あんた、今の俺みたいな服ってある? チノパンやジーンズにTシャツでもいいし、ポロシャツでもいい」


 面食らった顔をしたイグジストが呆けたように頷いた。


「あるはずだけれど」

「じゃあ、それに着替えてくれ」

「わかった」


 にこっと笑ったイグジストが足早に部屋を出た。


 その間、キャリーケースからリュックにてきぱきと荷物を移し変える。

 地図がないため、行く先はイグジストに聞くしかない。

 準備が済んだ頃、ドアをノックされる。


「入って来いよ」

「ジーンズとポロシャツならあったが、これでいいか?」


 軍服を着た側近を従え、イグジストが現れる。

 足が長く、ウエストはきゅっと引き締まり、尻は小さい。胸板の厚さはTシャツの上からでも見て取れる。ストレートのジーンズと無地の紺のポロシャツなのだが、充分絵になる。

 ミラノのランウェイを歩かせてみたいスタイルだ。


「いいよ、それで」

「そうか、よかった」

「じゃあ、行くか」

「どこへ?」

「キャンプだよ」

「キャンプ?」

「あんた、外で寝たことなんてないだろう?」


 イグジストはあっけにとられた顔で蓮を凝視する。


「確かに私にとっては大冒険だ」

「皇帝だったらいくさの時に外でどう過ごせばいいのかぐらい知っておいた方がいいんじゃね?」


 リュックを背負った蓮はイグジストの背を叩き、部屋を出る。後に続いて出たのはイグジストだ。


「この辺で小川があるところって、わかるか?」

「もちろんだ」

「だったら案内してくれ」


 廊下に出て、横並びになった二人はやや前に出たイグジストが蓮を先導する形になっている。

 

 

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