第3話 高貴な御方

 写真は、CDカバーに使う分と写真集にする分に増えてしまった。

 しかし、親友の中田優斗なかたゆうとからの要望を尊重したい。

 優斗と考え、すぐに漣は失笑した。

 生きてここを脱出し、彼に写真を渡すことができるのか。

 帝国の存在を秘匿ひとくするため、逃げようとすれば抹殺されるに違いない。


 蓮はカメラの定位置となったベッドサイドにカメラを置いた。ベッドに乗り上げ、両手両足を広げて大の字に寝転がる。

 ここでイグジストとつがいになり、世継ぎをもうける。

 これまで誰とも番になろうと思ったことは一度もなかった。時には戦場へもおもむく自分に家族を持つ資格などないと考えていたからだ。


 だが、ここで彼の妃になれば、戦争などとは無縁の世界で生きられる。

 美しいものだけに囲まれた生活が待っている。

 蓮はどこかが痛むかのように目を閉じ、きつく眉を寄せていた。


 そしてそのまま寝入っていたのか、目が醒めると窓の外は宵闇に包まれ、庭のかがり火にも火が点されていた。

 サイドテーブルにあるクリスタルの置時計を見ると、午後七時近かった。

 この時間になるとやってくるのがアマカだった。


「蓮様、お目覚めでしょうか?」


 夕食の準備を告げる声が両開け扉の向こうでした。


「起きてるよ。今夜はどこで? 俺の部屋? 食堂室?」

「食堂室でございます」

「わかった。着替えてからすぐに行くよ」


 ドア越しに会話をしながら、蓮は短パンとTシャツからジーンズとTシャツに着替えて部屋を出た。すると、アマカが案内役として待っていた。


「俺、もう食堂室がどこにあるのかわかってるんだけど」

「それは承知しておりますが、ご案内もなく御ひとり様で向かわせるのは、高貴の御方にとって大変な失礼にあたります」


 アマカは生真面目な顔つきで、とんでもないことだと言わんばかりに目を剥いた。

 高貴な御方!

 なにそれ、いつのまにそんなことに?

 蓮は声すら出せずに唇だけを喘がせる。

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