第四話 平凡な一日

第1話 皇帝の食卓

 食堂室の角卓には白いクロスが掛けられ、四隅には透明なクリスタルのクロスウェイトがキラキラしている。

 中央にはオレンジのガーベラと数種の花束が飾られ、二重の皿とカトラリー、ワインと角グラス、皿の上には白のナフキン。

 今日の昼食はウインナーのホットドッグとカボチャのポタージュ、いわしの酢漬けとニシンのオイル漬け、キャロットサラダ、レタスときゅうりと数種の香草のサラダ、ライ麦などの数種のパン、ブルベリーやラズベリーが浮かぶ無糖の炭酸ソーダだ。


「具材はそのまま食べても、オープンサンドにして食べてもいい」


 漣の正面の席についたイグジストはナフキンを膝に広げつつ微笑んだ。

 なんだか力がないような、寂し気な微笑みだ。


「そうだ。食事の写真を撮ってもいい?」

「構わないが、なぜ?」

「一般庶民は皇帝が何を食べているのかなんか知らないはずだ。だから写真集に載せたいと思って」

「そういうことなら、いくらでも」

「ありがとう」


 寝室からカメラを持ってきた蓮は、目にも鮮やかな料理の数々を様々なアングルで写真に収めた。しかし、あまり皇帝にお預けさせてはまずいだろう。自分でキリのついたところでカメラを胸の辺りまで下ろした。


「こんなもんかな」

「確かに私の私生活を国民に知らしめるのは私にとっても有益だ。国民との距離が縮まる」

「写真で役に立てるなら本望だ」


 カメラを寝室に戻しながら朗らかに答える。

 すると覇気のなかったイグジストの顔が、ぱっと花が咲いたようになる。

 この国で出版する本の構想を話したら、不安げに揺れていた瞳に力が戻っていた。

 なんだ。やっぱり俺がここを出ることばかり考えていると、うがった見方をしていたのか。

 蓮はイグジストがいじらしくもあり、可愛らしくも思えてきた。


「いただきます」


 蓮が軽く手を合わせて唱えると、イグジストが双眸を細める。


「君は必ず食事の前には感謝を告げる」

「日本の習慣だからな」

「いただきます」


 イグジストは蓮と同じように手を合わせ、食物に祈りをささげて一礼した。


 温かいホットドッグにかぶりつく皇帝を眺めつつ、日本の皇室じゃ決して食卓に上らないだろうなと一笑した。

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