第8話 笑い声

「少し走らせてみるかい?」

「えっ? えっ?」


 漣の返事も聞かずにイグジストの馬の脚が速くなる。


「ちょっと待てって」

「鐙を少し強く蹴ってごらん。そうすれば馬は走り出すから」

「走るスキルにいきなりいくとかないから、マジで」


 答えながらも追いつけないのは何だか悔しい。

 蓮は言われた通りに鐙を蹴った。すると思っていたより速かった。あっという間に彼に追いつき、頭を並べてしまっていた。


「君の白馬は蹴られたことでプライドが傷つけられたみたいだな」

「どうせこんなやせっぽちのチビなんかに乗られるだけでも傷ついてるんだろ」

「そうでもないさ。君はきちんと乗りこなせている。それを証拠に、馬が勝手に立ち止まったり、動かなかったり、よそ道に入り込んだりしていない」


 言われてみれば、そうだった。

 今もイグジストの馬と並んで駆けている。


「彼女の名前はルーシーだ。君が言ったようにプライドが高くて気難しい」

「そんな馬に初心者を乗せるなよ」


 ぼやいた漣に、イグジストは唇の端を引き上げる。


「君なら乗れると思ったからだよ。ルーシーを乗りこなせるなら、他の馬でも大丈夫だ」

「スパルタだな」

「私の主義だ」

「よく言うよ」

「ルーシーでついて来られなければランクを下げればいいだけだ。ランクを上げていくよりも下げていった方が緊張せずに済むだろう?」


 言われてみればそうだった。

 これからランクアップすると聞けば誰しもが緊張するだろう。

 その緊張が馬に伝わり、馬の脚を止めさせる。


「あんた。皇帝なんてやっているより乗馬教室の教師をやった方が合ってるよ」


 心地の良い揺れに揺られつつ、溜息混じりにうそぶくと、ははっという笑い声で返された。

 

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