第6話 乗馬服

 乗馬服は黒のベルベットの上着にベスト、シャツは白。耐摩擦性で伸縮性のある黒のスリムパンツに黒のブーツ。ツバのあるヘルメットも黒だった。

 予想していたチェック柄でニッカボッカのズボンというのは時代遅れのようらしい。


「よくお似合いでございます」


 アマカがしみじみ褒めてくれた。


「蓮様は色白ですから、黒が映えます」

「ありがとう」


 男に向かって色白が誉め言葉になるのかどうかは微妙だが、とりあえず礼を述べておく。


「それではうまやにご案内致します。殿下もそちらでお待ちになるとのことでしたので」


 手のひらを廊下に向けたアマカに続き、蓮も出た。夜とは違い、淡い日差しが天井のシャンデリアや壁の漆喰文様や巨大な鏡や大理石の床をまばゆく照らし、目がくらむような豪華さだ。

 これが離宮というのであれば、王宮はベルサイユ宮殿そのものに違いない。


 「こちらでございます」


 アマカに従い、外に出ると、散策路のような道をたどり、緑に囲まれた厩に着いた。馬のいななきが時折聞こえる厩の前で皇帝が立って待っていた。アマカが言ったように全身モノトーンの乗馬服を着たイグジストはスタイリッシュで格好いい。

  

「お待たせして申し訳ございません」

「待たせてすまない」


 アマカと一緒に謝ると、気がいて早く来てしまっただけだと笑いながら皇帝が言う。


「君の顔立ちには黒が似合うな。顔が小さくて色白で、鼻筋も目元も細くすっと通っていて品がいい」

「また色白かよ」

「またとは?」

「アマカにも言われた」

肌理きめが細かくて肌が美しいと言いたいだけだ。決してアマカは人をあなどったりはしないたちだ。言葉通りに受け止めたまえ」


 皇帝と立ち話に興じるうちに、二人の使用人が二頭の馬の手綱を引いてやって来た。

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