第5話 出版確約

「それでは私は出版に関する手続きだけに留まろう。本やカードが出された後はノータッチだ」

「そうしてくれ」


 これでやっと安心して写真が撮れる。ほっと息を吐き出した。

 

 イグジストは二枚目には食パンを選び、使用人にバターを塗らせ、スライスオニオンとオイルサーディン、トマトを乗せたオープンサンドを食べている。

 蓮はベリー類にかけたヨーグルトを一口頬張り、再び感嘆の声を出す。


「なにこれ、うんめえ」

「ヨーグルトもベリーも自家製だからな。今朝摘んできたばかりのベリーに新鮮なヨーグルトを乗せたんだ。美味くないはずがない」


 まるで自分の手柄のように胸を張るイグジストに蓮は小さく吹き出した。


「食事が済んだら、私も乗馬服に着替えてくる。君の分は寝所のベッドに置かせたから、それを着て待っていてくれ」

「わかった」


 馬を乗りこなせるようになったら、馬を駆けさせながら写真を撮ってみたいと思う。


「君はもっと食べないのか?」

「もう充分だ」

「生ハムのオープンサンドとヨーグルトだけか?」

「もともと朝は食べたり食べなかったりする方だ」

「では、今朝の朝食は無理やりだったか?」

「そんなことはない。腹はすいていたし、北欧の最高レベルの朝食を食べられただけで満足だ」

「それなら私はこれで失礼しよう。また後で」


 ナフキンをテーブルの端に置き、イグジストは側近とともに部屋を出た。

 そういえば、部屋には側近達もいたのだと、その気配の消し方に驚いた。

 

 同じようにナフキンを置き、席を立つと、使用人がワゴンを使った片付けが始まった。残された具材が運び出されていくのを見ると、もっと食べるべきだったのかとも思ったが、どうもあのイグジストの視線に晒されながら食事をするのは照れくさい。


「蓮様。ご用意した乗馬服でございます」


 アマカが寝所から声をかけてきた。


 優しい朝日に照らされた寝所を改めて見ると、ベッドの対面の壁一面がクローゼットになっていた。そのドアのひとつに全身が映る鏡がはめ込まれている。

 昨日、ポロシャツとチノパンで寝入ってしまっていた蓮は、翌朝乗馬服に着替えることになろうとは、夢にも思っていなかった。

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