第4話 覚悟
「君の写真は道端の石ころのように、誰にも顧みられない媒体に命を吹き込むかのよ「あんた、俺の写真を見たのかよ」
「離宮の図書室の蔵書数は膨大だ。日本で著名な写真家で探したら、すぐに君の名前が出てきたよ」
スモークサーモンとディルのオープンサンドを食べ終えたイグジストは水の入ったグラスに手を伸ばす。うだ。決して派手さはないけれど、人の心を温める」
イグジストはグラスをテーブルに置き、二枚目のパンにバターを塗らせて具材へと視線を移した。だが、蓮は矢で心臓を貫かれたかのように動けない。
これまでずっと、誰にも顧みられない媒体にファインダーを向けてきた。
その信条にいきなり触れられ、返すべき言葉が見つからない。
「……いただきます」
胸の前で軽く合掌し、昨夜イグジストに言われたように、使用人にライ麦パンにバターを塗らせ、レタスと細切りにしたニンジンのドレッシング和えと生ハムを乗せさせた。
「ここの生ハムは美味いだろう?」
「皇帝が口にするだけあって美味いさ、それは」
「他に何か好きなものは?」
「質問攻めだな」
「私は君についてもっとよく知りたいと思っているだけだ」
神話のような美丈夫から強い視線で射抜かれて、どうしていいのかわからない。
蓮はこの俺を本気で妃にしようと思っているのか、イグジストの真意もわからない。
そうだとしても、フォトブックの出版が確約されるのは美味い話だ。
写真家だったら誰でも
「だけど、出版自体は頼んでも、皇帝のお墨付きとか何とか言って、あんたの力を借りて売るのは嫌だ」
「そうした方が売れるのに?」
「俺は、俺の写真の力を信じている」
「もしも全く売れなくてもか?」
「それはそれで仕方がない。俺にはこの国の人々が求める写真を撮るだけの腕がなかった。それまでだ」
「強気だな」
「強気じゃなけりゃ、フリーの写真家なんてやってられない」
いきがる漣にイグジストは目を見開いて肩をすくめる。
「なるほど。君には覚悟があるらしい」
イグジストは取り上げかけたグラスをテーブルにカツンと戻した。
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