第3話 フォトグラファー

「お飲み物はいかが致しましょうか?」


 使用人に問われた蓮は、この地方ならではのフレッシュなジュースが欲しいと返答した。


「だったらカシスとオレンジのブレンドがいいだろう」


 イグジストは自分には水を注がせながら使用人に命令した。

 なんだかカクテルみたいだと訝しながらも口にすると、目が覚めるような美味だった。カシスの酸味をオレンジの甘さが美味くマイルドにしてくれた逸品だ。

 蓮はさっそく席を立つ。

 ベッドのサイドテーブルに鎮座させたカメラを水滴も瑞々しいグラスに向けてシャッターを切った。だが、イグジストは「残念だが」と一蹴する。


「この『森』では写真に撮ったとしても、『森』の許しを得ないで結界を超えた瞬間、写真はすべて焼け焦げる」

「そんなあ」


 嘘だろと、情けない声を出した蓮にイグジストは構うことなく、使用人にバターとサワークリームを塗らせたパンにサーモンの燻製と香草のディルを乗せていた。


「君も好きなようにパンに乗せて食べたまえ。写真家の君に映した写真は残らないと言われたらショックかもしれないが、ここにいる間は残される。だから美しいこの国を大いに写真に収めてくれ」

「俺の仕事はフォトグラファーだ。記念写真を撮るためにカメラを担いでいるんじゃない」

「だったらここでフォトグラファーになればいい。ここでは本も写真集も外界と同じように出版している。この国の素晴らしさを伝える君の写真でフォトブックやポストカードを作ればいい」

「だけど、あんたの妃になるんだろう? 妃が庶民のように仕事をするなんてことが許されるのか?」

「私が許可する。君の写真は、もっと多くの人に知られるべきだ」


 イグジストはしれっとした顔で言い切った。

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