第6話 代わりに私が
「良ければ話してくれないか?」
ベッドの脇に座ったイグジストの重みが漣にも伝わる。
そして、彼になら話をしても嘲笑されたりしない気がした。
「……セーフティブランケット」
「えっ?」
「俺は子供の頃から眠る時にはそのブランケットを抱いて寝ないと眠れないんだよ」
「そのブランケットが荷物の中に?」
「……そうだよ」
二十四にもなって、ふわふわのブランケットが顔周りになければ眠れない習慣を持っていた。恥ずかしいから歴代元カノにも打ち明けなかった。眠れないまま朝を迎えるだけだった。
なのに、この男には話しができる。
知っているのは親友の
「ふわふわしていれば、そのブランケットの代わりになるのか?」
「なんで?」
なぜ、そんなことを聞くのだろう。
「わからない」
「では、試してみよう」
ベッドを離れたイグジストは、寝所のドアをバタンと閉じた。
ベッドの上で固まったまま、数分間が過ぎたあと、コンコンとドアがノックされた。
「はい」
返事をした蓮は再び寝所に入ってきた彼を見て驚愕した。
狼なのだ。
それも成人男性の二倍は大きく、体毛は白銀色にふさふさと輝いている。
出入口で頭を屈めながら入ってきたイグジストがベッドの上に乗り上げた。でかい。白い。もふもふだ。
「この私にもたれて眠るというのは、どうだろう」
「あんたはイグジストなんだよな?」
「ああ、そうだ。私は自分の意思で人にもなれるし、狼にもなれる半人半獣」
「半人半獣……」
伝説の国に半人半獣まで住んでいる。
今日のキャパシティーは完全に超えていた。
しかし、なんて手触りの良さそうな毛皮だろう。蝋燭の火で照らされた彼は艶々の毛皮で覆われている。
触りたい。
「驚かせてしまったか?」
何の反応も示さない蓮に不安げな声でイグジストに問いかけられた。
「びっくりしたさ」
「そうだろうな」
「だけど綺麗だ。めちゃくちゃ綺麗」
堪らず右手を伸ばした蓮は、イグジストの背中にそっと触れてみた。
「恐くないのか?」
「恐くないよ。だって中身はあんただって知ってるから」
ニ、三度撫でた背中の毛皮はシルキーで柔らかい。
「どこの誰とも知らないヤツが獣になって入ってきたらビビるけど」
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