第2話 名物料理

「今夜はこの土地の名物を用意させた。君はここへ来て、何かもう食べたのかい?」

「いや、飛行機に乗る前に菓子パン食ってそれきりだ」

「良かった。それじゃあ君がこの国に来て初めての記念すべき食事になる訳だ」


 記念するべき食事かどうかはこちらで決めることだけどなと思ったが、黙っていた。多少ひとりよがりのところはあっても、むやみに噛みつく必要のない人物だ。


「それでは運んでくれ」

「畏まりました」


 給仕が下がると、両開け扉が開かれて、銀のトレイを持った給仕がぞくぞくと入ってきた。


「この地域での特産といえばサーモンだ。燻製にしたサーモンは自慢のひと品だよ」


 シンプルにバターでソテーした燻製にマッシュポテトを付け合わせにした皿がテーブルに置かれ、蓮はナプキンを膝に広げて置いた。

 フォークとナイフで切り分けて食べると、しっとりと脂がのっていてトロッととろけるような食感だ。


「美味い」

「そうだろう。あとは名物といえばオープンサンドだ」


 給仕がテーブルに並べた皿の中に、北欧といえばの名物が置かれている。

薄く切ったライ麦パにバターを塗り、生ハムやチーズ、生のサーモン、ディルなどのハーブ、ニンジンやキャベツやプチトマトのオイル漬けなど、自由に乗せて食べるオープンサンドは、見た目にも華やかだ。

 

 早速ライ麦パンに右手を伸ばすと、イグジストがはっとしたように声を上げた。


「食事の席では君は何もしてはいけない。ライ麦パンを選んだのであれば、使用人にそう言いなさい。具材もそうだ。食べたいものを彼らに伝えて作らせるのが、ここでのマナーだ」


 確かにイグジストが言ったように、使用人達が手持無沙汰な顔をして立っている。それは自分が作れと指示をしないからだ。


「それじゃあ、ライ麦パンにクリームチーズを塗って生ハムとオニオンスライスを乗せたものを」

「生ハムが好きなのかい?」

「好物だ」


 使用人に作らせたオープンサンドを頬張ると、イグジストは空のワイングラスの柄に触れた。


「君は酒はたしなむのかい?」

「すすめられれば飲むぐらい」

「それじゃあ、白でも飲むといい。食事によく合う」


 イグジストが呼びつけた給仕に彼が囁いた。


「君は何歳?」

「二十四だけど」

「二千年だそうだ」

「畏まりました」


 食堂室を出て行った給仕はすぐに一本のワインをたずさえて戻って来た。


「君が生まれた歳に作られたワインだよ」


 給仕が琥珀色に熟成されたワインをグラスに注ぎ入れられるのが、得意で仕方がないといった顔つきだ。どうやらこの男は喜怒哀楽が顔や仕草に出やすいらしい。

 つまり、それだけスレていないということだ。

 蓮は自分とは真逆だなと、ふと思う。


 オープンサンドを食べ進めると、生クリームをかけてオーブンで焼いたミートボールや、茹でたジャガイモにも生クリームと少量のアンチョビで塩味をつけて、これもオーブンで焼いた名物揃いの副菜が並び、四人掛けのテーブルから皿がはみ出しそうになっていた。

 

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