第6話 甘美な香り
しかし、どんなに美形だろうと、皇帝の妃として
「まずは夕食の支度を致しますので、蓮様もご一緒に」
側近らしき小男に、なだめるように告げられた途端、空腹だった自分の食欲中枢が直撃された。
そういえば、朝から何も食べていない。
カーテンの外では植栽が夕映えに影を伸ばしている。
クリスタルの時計を見ると、午後五時過ぎになっていた。
「時間は外の世界とおんなじなのかよ」
「同じでございます」
「夕食を先になさいますか? それとも入浴を先になさいますか?」
「それはそこの皇帝陛下にお訊ねするべき選択肢だろう?」
「私は君がどうしたいかで決めてもらって構わない」
「それじゃあ、先に風呂に入るよ」
ずいぶんと聞き分けの良い皇帝だ。
「それでは湯あみ場にご案内いたします」
くるりと踵を返した側近に続いて部屋を出ようとした時に、皇帝の前を通り過ぎた蓮は何とも表現しがたい甘美な
途端に身体の奥がズクリと疼いた気がしたが、香水か何かを使っているのだろうと捨て置いた。
宮殿の廊下は片方の窓が庭園に向かって広く連なり、片方は壁になっていた。
庭の方は、巣に帰る鳥の声が聞こえるほどに森閑とした静けさが胸に染み入る。
壁の方には肖像画や鏡がずらりと並び、暖炉の上には青銅製の蝋燭立て。立て型式の燭台には既に火が点されて、行き過ぎるたびに炎が揺れた。
壁は金や銀で葡萄の文様をほどこした壁紙だ。
使用人は高い天井から吊るされたシャンデリアにも点灯しようと、折り畳み式の
どうやら電気は通っていないらしい。
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