第5話 審判

「生まれたのが女だったらどうすんだよ」

「この国では第一子の男子に皇位継承権がもたらされます。女であれば内親王殿下となり、いづれはしかるべき相手と結婚をして皇室を離れて頂くことになりますが」

「冗談じゃない! 何言ってんだ、さっきから!」


 声を荒げた蓮は握りしめていたカーテンを乱暴に手放した。


「こんな絵にかいたような宮殿で、イグジスト皇帝とかいう変な男とつがいになって子供を産めだって? そんなこと俺に何の義理があるんだよ」

「あなたは『森』の許しを得て結界を破り、今こうしてここにいらっしゃいます。外の世界に行くためには『森』の許可が必要です。ですが、ここまでのあなたの言動を見る限り、あなたを表に出すのは危険と判断されるでしょう」

「だったら誰か他にいくらでもいるだろう? こんな宮殿で最上級の生活を約束されているんなら」

「いいえ。外界から内に入るには『森』の審判が必要です。伝説の宮殿で贅沢を目的にしてやってくるようなやからを『森』は決して選びません」

「つまり、贅沢よりも外の世界に出せとわめいた俺は合格だって言うのかよ」

「そのようでございます」

「蓮とやら」


 出入口付近で立っていた皇帝は、ドアを背にして前に出た。湊は思わず後ずさる。

 

「いますぐに、どうこうしろというのではない。ここでの生活にも慣れ、私とつがいになってもいいと思うまで私は待とう」


 この時、湊は初めて彼を間近に見た。

 長身で手足が長く、顔が小さい。秀でた額から高い鼻梁、顎にかけての稜線が美しく、肌の色はミルクに薔薇の花びらを浮かべたかのようだ。

 アルファだろうと、これほど造作の整ったアルファに求婚されれば一も二もなく快諾するにちがいない。

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