第3話 ここはどこ?

 カーテン越しの赤い日差しで目が覚めた漣は、手探りで携帯を探るため、枕元に手をやった。

 しかし携帯ではなく、何かが床に落ちたようなガタンという重厚な音がした。

 

「えっ……?」


 何が落ちたのかを確かめようと身体を起こすと、そこはベルサイユの宮殿を彷彿とさせる一室だった。

 自分は天蓋付きのキングサイズのベッドに寝かされ、上掛けをかけられていた。半円型の連なる窓には濃い赤色のカーテンが引かれている。窓枠の影が床に長く伸びていた。


「えっ? えっ?」


 白漆喰の壁には優雅な蔦の彫刻がほどこされ、その上に金箔が貼られている。

 天井を見上げれば、神々や天使の荘厳な壁画と雫型しずくがたのシャンデリア。

 枕も薄手の掛布団も絹の光沢を放っていた。


 そして床を見ると、落とした物はクリスタルの時計であり、蓮は時間を確認した。

 時計の針は夕方の四時四十分を指している。

 ということは、気を失ってから半日近く寝入ってしまったことになる。


「どこだ? ここは」


 森の中で意識が遠のいたことまでは覚えている。

 それを助けてくれたのが、この宮殿のような建物の主人か何かかもしれない。

 掛布団をはぐり、蓮はベッドを降り立った。


 窓のカーテンを半分開けた漣は眼前の景色にも驚愕した。

 西洋式の庭らしく左右対称に刈られた庭木や、庭木によって型取られた散策路が視界の果てまで続いている。 

 庭の中心部には巨大な噴水がもうけられ、高く飛沫をあげていた。


 服は意識を失う前と同様の、チノパンに半袖のポロシャツだ。

 

「あっ……と、カメラは」


 カメラはと、胸の中でひとりごちて見回すと、ベッドの枕元にある左右対称のサイドテーブルに置かれていた。


「ああ、よかった」


 カメラには、空港に着いた時から自由気ままに写した写真がすべて収められている。これを失くせば、命をもぎ取られたも同然だ。

 ひと通り部屋の中を見回した蓮はドアに目をやった。

 とりあえず部屋を出て、ここはどこで誰に連れて来られたのかを確認しようとした時だ。

 廊下側からドアがノックされ、ゆっくり扉が押し開けられた。

 

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