第20話 告白



 目の前に、高校時代の同級生がいる。

 何だか不思議な気がした。

 守はコーヒーを一口飲んで、口を真横に結んでから決意したような顔をした。


「高校の時はごめん。暁生にひどいことをしたと思ってずっと後悔していたんだ。あんな形で消えたのは卑怯だった」


 暁生は首を振った。


「もう気にしていないよ。でも……、最初はなんでかなって思ったけど……」


 過去の事を思い出すと、少し胸が痛かった。ずっと、しまいこんでいた気持ちだった。

 守は、そうだよな……、と小さく言った。そして、暁生が知りたかった真実を教えてくれた。


「俺、高校生の時、好きな人がいたんだ」

「え?」


 好きな人?

 それは、自分ではなかったのだ。

 少し、ショックだ。


「その人は男性で先生だった。すごく好きだったけど俺は学生だったし、先生に相手にされないって分かっていた。その時に暁生と会って。暁生は優しくて、一緒にいるとすごく居心地がよかった。でも、俺はずっと先生の事を忘れられないでいた。そのうち、本当のことを言えない事が辛くなって……。だから、暁生と別れようと思った。でも、俺は何も言い出せなかった。俺は、暁生の優しさに甘えていたんだ。暁生を傷つけたくなかった」


 守は苦しそうに告白をする。

 暁生は信じられなかった。

 まさか、他に好きな人がいたなんて。しかも、相手は教師だなんて。

 あまりに驚いて声が出ない。


「ごめん……」


 守が呟いたのを聞いて、ハッと我に返った。


「い、いや、いいよ。びっくりしたけど、でも、よかった……」

「え……?」


 守が不思議そうな顔をする。暁生は、泣きたいような気持ちで言った。


「僕は君にひどい事をしたのかと思っていた。それで、君が離れていったのかと思っていたから、だから、本当の事が聞けてうれしい」

「怒っていないのか?」

「あの頃の僕だったら、怒っていたかもしれない。けど、今の僕は違う。守もあの時、辛かったんだなって分かったから」


 守は、ハッとした顔をしてから、少しうつむいた。組んでいる手が少しだけ震えていた。


「本当の事を話してくれてありがとう。守」

「うん……」


 守はすぐに声を出さなかった。

 しばらく黙っていたが、飲みかけのコーヒーを飲んで顔を上げた。


「付き合っている奴いるの?」

「え?」


 暁生はどきりとする。こくりと頷くと、


「そっか……」


 と、小さく呟いた。


「あの後、先生に告白したんだ」

「え、そうなの?」


 寝耳に水だ。相手は誰か知らないが、守は本気だったのだ。


「もちろん、断られた。俺は男だぞって。心の迷いだって言われた」


 守が苦笑する。


「でもさ、あの時、俺は暁生と付き合っていたもんな。やっぱり男が好きなんだと思う」


 頭を掻いて、ちら、と暁生を見る。


「そっか、付き合っている人いるんだ。もう一度、付き合えるなら、大事にしたいって思ったのにさ」


 暁生は返事に困った。守のようなかっこいい男性に、こんなふうに言われるような自分じゃない。


「ごめん……」

「いいよ。今日のことはその、付き合っている人に言ったのか?」

「うん。伝えている」

「うまくいっているんだな……」


 守の声が寂しそうだ。

 男同士で付き合うって、大変なんだと思う。

 それは、暁生が一番よく知っている。

 守は、話をしたことで気が楽になったのか、ほうっと息をついた。


「やっぱり会ってよかった。暁生が変わっていなくて、すごくうれしいよ」

「僕もだよ。本当のことを話してくれてありがとう。こちらこそお礼を言うよ」


 そう言うと守は笑顔になった。

 それから、少しだけ話をして、一緒に店を出た。


「これからは友達になってもらえるかな」


 守が言う。


「もちろん、いいよ」


 暁生は素直に答える事ができた。


「じゃあ、な」


 守の方が先に駅へ向かった。

 暁生はその後ろ姿を見送りながら、春臣の声が聞きたいと思った。

 携帯電話を見ると、春臣から連絡が入っていた。


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