第17話 隠していたこと



 守は何を隠していたのだろう。

 今さら謝りたいと言われても、もう過去のことなのに。


「暁生さん?」


 険しい顔をしていたせいか、気づけば春臣が目の前にいた。


「どうしたの? 怖い顔をして。変なメール?」


 暁生は、顔を上げて恋人の顔を見た。


 どうしよう。春臣に相談しようか。

 でも、黙っていて、ばれたときに誤解されたくない。

 暁生は、ごくりと喉を鳴らしてから春臣を見た。


「暁生さん?」

「春臣、ちょっといいかな」

「うん」


 暁生の様子を見て、春臣は少しだけまじめな顔をした。


「まさか、別れ話とか、そんなんじゃないよね」

「違うよ」


 暁生は慌てて言った。


「なら、いいや」


 春臣が屈託なく笑顔になる。

 暁生はほっとしながら、何から話せばいいのだろうと思った。とりあえず、高校生の頃の話なんだけど……、と切り出した。


「僕は高校生の時、一人だけ、付き合った人がいたんだ」

「えっ?」


 春臣が目を見張る。


「男の人?」

「うん」


 打ち明けた時、少しだけ後悔したが、春臣は口を真横に結んでから、ふっと力を抜いた。


「それで?」

「ごめんよ、もし、嫌な思いをさせたら……」

「平気だよ。だって、今は関係ないんでしょ」

「うん。その人とは、高校三年生の時に付き合っていたんだけど、大学進学と同時に自然消滅しちゃってね、一度も会わなかったんだけど、今日、図書館でばったり会ったんだ」

「えっ、そうなんだ」


 春臣が驚いた顔をする。


「連絡先を教えてほしいって言われたから、あまり考えずに教えたんだけど、今、連絡が来て、高校生の頃のことを謝らせて欲しいって言われた」

「ふうん……」


 春臣が言って、少し考える顔付きになった。

 男前がまじめな顔をすると、少し怖い。


「暁生さんは会いたいの?」


 春臣が小さく聞いた。


「僕は…」

 

 暁生は目を閉じた。


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