第56話 家庭教師2

「リーサの家庭教師…悩ましいところではありますわ。あの子は嫌だと思えば、誰がなんと言おうとやりませんし、かと言って、先生を気に入れば、それはそれで、問題…。」


フィルからの相談に、リリーエも頭を悩ます。

ツェリは、既に、リーサの家庭教師は、あと数年経てば、事態は変わるわと、今は、やらすことを諦めたようだ。

それはそれで構わないが、リーサが、上の従兄弟たちの家庭教師の邪魔をすることをやめさせなければならない。


「ツェリもフランツ達の家庭教師の時は手を焼いたから、同じ時間に、習い事をさせたけれど。その手が使えないとなると…フィル、ツェリに代わりなさい。」


「え?」


ツェツリーエに代わる。



「お母様、何?」


「ツェリ、リーサの家庭教師の話だけれど、あなたの幼い頃、そっくりではありませんの。あなたもよく邪魔をして。」


「お説教は受け付けないわ。」


「そんなあなただからこそ、わかるものもあるでしょう。リーサが他の子たちの家庭教師の時間を邪魔するなんていけないことですわ。いいわね?ツェツリーエ。その時間帯、あなたが、リーサにつっききりになり、礼儀作法などの常識を教えるのです。」


「私が?」


「そうです。だからと言って、だらけたり、二人で共謀して、嫌な相手に対しての愚痴だったり、遊んだりしてはいけませんわ。私が、授業内容を纏めたものを送りますわ。いい機会ですわ。あなたにもリーサにも。あなた自身、復習も兼ねて、誰かに教える練習にもなりますし。実母相手なら、リーサも人見知りしないでしょうしね。それにリーサがわがままを言ってもあなたになら通じませんわ。」


伊達に甘やかされて育ってきたツェツリーエの方が、リーサのわがままを素直に聞くなど、絶対にしない。

例え、リーサが、ツェツリーエに、わがままを言ったりしたら、ツェツリーエは、倍以上に言い返す。

娘だからといって、容赦しない。

生粋のお姫様育ち。


「私、誰かに教えたことないわ。大丈夫かしら?」


「まあ、資格は無いですけれど、あなたは、私の娘ですわ。伊達に無駄に習わせてきたつもりはありません。大丈夫よ。あくまでも、リーサに、礼儀作法の初歩をあなたが教え、リーサは、それを学ぶことが目的なのですから。根気のいる授業になるとは、思うけれど、あなたなら、十分、出来ますわ。なぜなら、あなたは、私の自慢の娘ですもの。」


「お母様…。」


「出来ますわね?ツェツリーエ。」


「ええ。任せて頂戴。私はお母様の自慢の娘なのだから。」


リリーエは、深く頷いた。

速達で、資料を送ると言う。



「聞いておりましたわね?フィル。というわけで、ツェリに、リーサの行儀見習いをさせますわ。はじめは短い時間からコツコツと。何だかんだ、あの二人の気質は似ていますから。」


「大丈夫かしら?」


「平気ですわ。まあ、遊ぶようなら、私も考えがありますわ。でもおそらく、平気でしょう。誰かに教えることは、自分が、学ぶことより、難しいのですから。」



「わかりました。」


忙しくなりますわと喜んでいるリリーエとしばらく、世間話をする。



「というわけで、私があなたに行儀見習いを教えるわ。」

夕飯のパンをちぎっていたリーサは目を丸くする。

「ままが?リーサの先生になるの?」

「そうよ。」

「まま、先生出来るの?」

「見くびるんじゃないわ。私を誰だと思ってるの?ツェツリーエよ?出来ないなんてありえないわ。」

従兄弟たちが目を見合わせている。

マルクスは、事前に聞いていたようで、立派になってと涙ぐんでいる。


「いつから始めるの?」


「取り敢えず、次の週の月の日からやって行こうと思うわ。予定としては、月の日と火の日に。慣れるまでは、一時間からやろうと思うの。」


サラトガの問いに答える。

双子の習い事に被せている。





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