第53話 リーサが生まれた日
元々、魔力が高いツェツリーエとロッシュヴォーク家のサラトガの間に子供が出来たならば、凄い子供になるだろうと注目が高かった。
本人同士と何の関係もなく、勘繰られた。
ツェツリーエの妊娠が分かった頃から、細心の注意を払った。
マルクスをはじめ、ロッシュヴォーク家も後ろ盾になり、積極的にサポートした。
ただ、そっとしておくことをしなかった連中がいる。魔法省特別監査部門・査問会連中だ。
警戒をしていた。
何せ、ツェツリーエとサラトガの子供。
どう転ぼうが、魔力が高い子供が出来る。
魔力が高い子供を引き入れることも監視することも彼らの仕事。
かつて、魔力が高い故に、目をつけられたフランツがしつこく纏わりつかれ、マルクスやツェツリーエの怒りを買っている。
しかも、査問会の背後にいる古狸のせいで、間接的に、フランツは、魔法省勤めになってしまった。
生まれてくる子まで狙われたら、ツェツリーエは、溜まったものではない。
妊娠で気を揉んでいるツェツリーエに、ストレスを与えないように通達したが、監視による査問会の嫌がらせに、キレたツェツリーエは止まらなかった。
マルクスは止めなかった。むしろ、かわいそうだといい、査問会に抗議だけでなく、あらゆる手段で追い詰めた。
ツェツリーエが産気づき、医者が呼ばれた。
ツェツリーエに応えたわけではないだろうが、その日は、稲妻が轟き、雨風が酷かった。
後に噂で、魔法省のある一部分が、雷による落雷で、焼けたらしい。
ツェツリーエの腹いせではと言われたが、ツェツリーエ自身、知らないわと否定したし、何なら、焼け落ちればよかったのだと宣った。
無事に産み落とされた赤子にリーサと名付けた。ふくふくとした可愛らしい女の子。
産まれて間もなく、何かしらの異変もなく、ホッとした。
ただ、リーサが産まれて間もない頃。
サラトガは耳を疑った。
実父であるダグラスから呼び出された。
地下深くに眠りついていたガルガンズが、起きたらしい。
ガルガンズは、ロッシュヴォーク家の秘宝の一つで、最古種のドラゴン。
契約により、ロッシュヴォーク家のものを守っている。
ガルガンズは他のドラゴンと異なり、長年、強大な力を封印するべく、宿主になるロッシュヴォーク家の血筋の人間が生まれれば、死ぬまで、その体で封印される。
宿主が死に次の宿主が生まれる間、特殊な方法で封印されている。
そして、前回、宿主だった人物から、長らく、宿主が生まれていなかったが、リーサが適合したと知らされた。
ガルガンズが目覚めたのだ。一刻の猶予もなく、宿主にガルガンズを封印せねば、大変なことになる。
「リーサが本当にガルガンズの宿主に?」
「間違いない。ガルガンズが指名した。」
ガルガンズの宿主になれば、元々狙われやすいロッシュヴォーク家の人間なのに、更に、狙われやすくなる。
およそ、200年前に、ガルガンズを所有する宿主の娘が無理矢理、ガルガンズと娘を引き離そうとした。
しかし、それは、最悪な事態を呼ぶ。
ガルガンズが暴れた。国家が一つ、滅んだらしい。
リーサにガルガンズの封印の儀式が行われた。
サラトガが、リーサに施した。
「いいかい。リーサ、お前の体に、ガルガンズがいるからね。でも、何でもかんでも、ガルガンズにお願いをしたらだめだよ。ガルガンズは、一番、気難しいけど、一番、人に忖度しない。えーと、あまり、ガルガンズを頼ってはいけないからね。」
「うーん?」
キョトンとする娘にまあ難しいよねと苦笑い。
サラトガは、魔法省監査部門・査問会に呼び出された。
言わずもがな、リーサのことだ。
「サラトガ、血迷ったか。なぜ、あんな幼子に…!」
「ガルガンズが選んだのです。」
リーサに、ガルガンズが渡るとこれぽっちも予期しなかった彼らは、焦っている。
それも仕方ない。ガルガンズが宿る相手は、これまでにもいたが、あんなに無邪気な子供はそういなかった。
我が子ながら、ちょっとだけ、お転婆である。
でもなるようにしか、ならないのだ。
「まま、おばけがいるの。おじちゃん、助けて。」
リーサがある日、おばけがいて怖いと泣きついた。マルクスは、リーサに聞いた。どんなおばけだったかと。
リーサは答えた。
「お顔が怖いの。何も変わらないの。」
拙い言葉で発せられた内容だった。
そして、リーサは、お面みたいなやつだと言った。マルクスは、リーサのために、調べた。
結果、査問会連中である。
マルクスの怒りを買った。
査問会連中は、リーサに対して、おそらく、無意識に悪意を与えたのだ。
それを感じたリーサが怖がった。
マルクスの独断場による制裁は、目を瞠るものだった。
トラウマが蘇ったのだ。無理もなく、ツェツリーエも査問会連中に対して攻撃を加えた。
誰も止めなかった。
頼みの綱であるフランツに連絡が行ったらしいが、リーサが勝手にクロッグを繋げ、フランツにどれだけ怖かったかを伝えていたため、フランツは、不愉快だといい、助けなかったらしい。
これにより、益々、両者の亀裂を生んだ。
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