第22話 フィルの悪夢4

取り残されたツェツリーエは、家に残っていた甥っ子たちとリビングに固まっていた。


「あなた達、大人しくしてなさい。」


母の怒りに触れたくない息子たちは、首がもげるのではと思うほど、首を縦に振る。


「サラトガ、早く、帰って来て頂戴。」


飛び出したフィルを追いかけたいが、甥っ子たちを残していけない。

既に兄とサラトガには報告済み。

兄かもしくは、兄の部下が動いて、リーサの奪還に行くだろう。


「あのバカ、余計なことをしてくれたわ!」

「ツェリおば様!!サラトガおじさんだあ!!」


すくっと立ち上がる。

バタバタと近づいてくる足音。


「ツェリ!!」

「あぁ、サラトガ…!!あのバカ、やってくれたわ!ごめんなさい。フィルは止められなかったの!」

「いいんだよ。今、マーティンが行ってる。マルクスが怒りが収まってなくて、デヴァイスが盾になってるんだけど…リーサは、オスカーを知ってたのかな?」


リーサは、ああ見えて、人見知りが激しい。

慣れるまで時間がかかる。


「多分、あの時だわ。近づいたらだめだと教えるつもりが仇になったわ。」

「…起きたことは仕方ない。…どう、この結界を抜けたかだね。ガチガチにやったけど…才能の無駄遣い。救いはまだリーサだけを連れ出したことかな。ふたりとも気にしないで。マッキー、オルドーのせいじゃない。全部、オスカーのせいだ。」


自分たちがうたた寝してしまってる間にリーサが誘拐された。

悄気げている二人に、優しく、頭を撫でる。


「そうよ。全ては、オスカーのせい。フィルが飛び出したのも、リーサが誘拐されたのも…絶対、お兄様は、家からしばらく、出してくださらないわ…!あのバカ、人の名前で借金、作ろうとした時に始末するべきだったわ!」

「マルクスの怒りを買ったからね。フランツに伝わるだろうし。もしかしたら、キングブレストから下山してくるかもしれない。」

甥っ子たち、固まる。フランツが下山してくる。大事だ。

「リリーエ先生達も来るだろうし…。」

「あ…。」

「ツェリ…ここから正念場だよ。」


フィルから確実に伝わる情報。

リリーエは怒りまくるだろう。

何せ、オスカーは、フィルを傷つけた。

フィルの矜持を傷つけたのだ。

そんなもの、リリーエは、許さない。



「おばちゃん…?」

フィルの異変に気づいたリーサは首をかしげた。


フィルはリーサを捉え、リーサを抱き上げる。

その際に、リーサに染み付いたタバコと酒の入り混じった匂いにフィルは、発狂しそう。


「ああ…!!ベイビー!!可哀想に…!」


「…泣いてるの?誰にいじめられたの?リーサがやり返してあげる!」


ぎゅう。リーサは、この時、気づいた。

いつもフィルから香るベビーパウダーのような安心する香りがしない。

「…?」

リーサは、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。

匂いを確かめるために。


「オスカー!!」

「フィル様…!!…こちらに…。オスカーを拘束しろ。」

マーティンが部下と共に乱入。

怒号が店内に響く。



リーサは、マーティンから、オスカーの言った言葉は、全て、嘘であり、リーサは、利用されたことを教えられた。


「うわわあん。」

キャパオーバーになったリーサは、体中から、水分が抜けたんじゃないかと思うほど、泣き続けた。

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