第15話 お手伝い
アンジェリカは、三人を連れて、外に出る。
ミレアム家が育てている家畜は、冒険者たちにも、一目置かれる程の家畜の為、子供には無理である。
では、二人のお手伝いとは何か。
連れてこられたのは、干草が束ねられている物置だ。
アンジェリカがポイポイと、意図も簡単に地面に落とす。
「いいかい?これから行くのは、比較的、うちでも穏やかな性格の羊の小屋に行くよ。アルミンがいるから、襲われないだろうけど。気を逸しちゃだめだよ。」
「子羊、うまれたんでしょう?」
「そうよ。今年は10頭、生まれたわ。みんな、元気よ。」
アンジェリカのあとを追う。
羊の餌場に干草とトウモコロシ等が混じった餌をばら撒く。
「あれが、子羊、小さいね。」
「そうでしょう。でも今に大きくなるわ。」
「あー、裾、噛んだらだめだよ!」
イタズラが好きなようだ。子羊に服の裾を噛まれた。
「あははは。こら、だめよ。やめな。」
マリーウェザーが軽々と、子羊を抱き上げ、ちょっと遠くにやる。
「マリー、すごい!重くないの?」
「子羊ぐらいならね。あたしなんて、まだまだよ?姉様とかお母様なんて、大人の牛を抱えられるわよ。」
「牛??」
牛って大きいよね?
今、リーサとアルミンとマリーウェザーは、大きな広い場所で、裸足になり、バタンバタンと飛び跳ねている。
「ほら、あんたたち、均等になるように、広げな。」
弾力のある小麦を使った生地を丸く成形するために、子供3人の体重を使い、綺麗に洗浄した足で踏んで、広げていく。
リーサとアルミンのほっぺは、赤くなってる。
バタン…バタン。
「腰にもっと力を入れな。そう、上手だよ!」
「床、外れちゃうんじゃない?」
「凄い力なんじゃない?」
「ふたりとも、喋ってる暇はないわよ。ほら、また盛り上がってきたわ。」
この小麦は特殊でもちもちになる成分を含んでいるのだが、何分、弾力がありすぎて、踏むと、ポコポコと泡のように、穴が空いていく。それを防ぐため、思い切り、力を込め、素早く、捏ねくり回し、形を整えることが重要。
てんやわんやで三人が、生地の上で、あちこち、バタバタ、走る。
「アンジェリカ様。ちょっと。」
アンジェリカの背後に立ったのは、元冒険者で、現在、ミレアム家で働いている青年で、寡黙でありながら、勤勉に働いてくれるため、アンジェリカからも信頼が厚い。
冒険者だったと言う経歴に恥じない鍛えられた肉体と強面な顔立ちをしている。スキンヘッドも更に磨きがかかってる。
「なんだい?」
「例の冒険者たちが、問題を起こしまして。鶏舎にいた鶏たちが暴走してます。」
「なんだって?」
「ストライキの上、逃亡を図ったようです。今は、取り押さえられてますが。鶏たちのストレスがヤバくて。荒れ狂ってます。」
「はあ…。全く。何を考えてんだい。」
「いかがしいたしますか。」
「今、行くよ。ちょっと、この子らを見ていて。マリー、ちょっと席を外すから、頼むよ。」
「わかったわ。どうしたの?」
「鶏の面倒すら見れないバカを叱りに行くのさ。」
「鶏?あの鶏のこと?」
リーサは、アルミンと見つめ合う。
ミレアム家の飼ってる鶏は、普通の鶏じゃない。
グレード・ル・チキンと呼ばれる鶏の一種で、雄は、立派な鶏冠と鋭利な嘴がついている。
オス・メス関係なく、嘴で突かれたら、大怪我をする。
どっしりした体躯で筋肉質の割には、とても俊敏。
肉は、ぷりぷりとした肉厚で鳥臭さがなく、産んだ卵は、栄養素が高く、ハッキリとしたオレンジ色とトロッとしたとろみがある。
鶏舎の方へ向かっていくと、未だ、鶏たちの声が響いている。
鶏舎の扉を開き、口を開く。
「落ち着きな!!」
たった一言で、鶏舎の中が滅茶苦茶に荒らしていた鶏達とそんな鶏たちを懸命に宥めていた従業員たちが、一斉に、止まる。
ぐるっと、鶏舎の中を見渡す。
「あーあー。派手にやったね。柵もボロボロじゃないか。鶏の世話をサボったバカはどこだい?」
「裏にいます。」
「全く。けじめを取らせないと。…ギルド長の依頼じゃなきゃ、餌にしてやるとこだよ!うちの大事な鶏に何やってんだい。」
従業員たちは、決して、口を開かない。
鶏たちも、大人しく、柵の内側に避難中。
「?ねえ?今、なんか、壊れた音しなかった?」
「えー、聞こえなかったよ?」
「アンジェリカが暴れてるんじゃない?強いからさ?バーンって。」
「お菓子、作ってくれるかな?」
「大丈夫だよ。アルミンたちのせいじゃないもん。それより、何つけて、食べるか、決めた?」
「ジャムかな?あ。でもクリームも良いよね。」
「うちの上澄みクリームは絶品よ。頑張りましょう。この生地を使ったパイは美味しいんだから!」
子どもたちは精一杯に足で踏む。
「この大馬鹿者がー!!!」
従業員たちに抑えられている現役冒険者たち。
とある理由で、ギルドから、ペナルティを受け、ミレアム家への奉仕を命じられた。
期間は、約一ヶ月。
アンジェリカの愛と怒りの鉄拳により、5人の冒険者たちは、ぶっ飛んだ。
冒険者たちも強化付与をつけているが、アンジェリカの拳に耐えられなかった。
「はあ。全く。何ていう、体たらく。あんたたち。それでも現役冒険者かい?あたしが、何も知らないって思ってるなら、馬鹿にするんじゃないよ!!随分、ナメた真似をしてくれたじゃないのさ。真面目に働いてる子たちの邪魔をした挙げ句、言いつけられたことも、出来ないなんてね!!冒険者のクラスなんて、どうでもいいの。あんたたちの性根の悪さ…あたしは甘かったみたいね!生ぬるかったようだよ!反省さ。もう甘やかさないよ!連れてきな。」
既に、白目を向いてるやつ、泡を吹いてるやつ。気絶してるやつ。
連れて行かれる先は、ミレアム家の家畜の中でも最恐を誇るリベリオン・ホース。
馬の一種で、非常に知能が高く、プライドが高すぎるほど、高い。
毛並みは綺麗で、脚力が強く、馬の中でも2倍は太く、蹴られたら、もう大変。顎を蹴られたら、顔面崩壊だと思ったほうがいいぐらいに、殺傷能力が高い。
家畜と言ったが、このリベリオン・ホースに関しては、ミレアム家のペットの馬だ。
大事に飼われており、本当に毛並みはつやつや、適度な運動。良質な餌を与えられ、ストレスフリーな環境下。
ただ、このリベリオン・ホース。
ミレアム家以外に懐かない。故に、普段は、ミレアム家の人間が世話をしてる。
ただ、度を越した荒くれ者を罰する際に、世話を任せるのだ。
すると、リベリオン・ホースは、暴れる。
許可してないやつが、側にいるのだ。
我慢ならない。放たれた連中は、十分も保たない。
逃げ回るのだ。彼らから。
デッドレース。殺傷能力が高い馬から、逃げ回らねば、待つのは、良くて、大怪我。悪くて、死である。
「アンジェリカ、遅いね。」
「しょうがないわ。先に戻りましょ。」
わらわらと母屋に戻る。
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