第16章: 希望の芽生え - 志願者アンナとの出会い

 ある日、修道院に一人の少女が訪れた。

「シスター・エマ、この子をお願いします」

 少女を連れてきた修道女が、エマに頭を下げた。

「初めまして、私はアンナです」

 少女は、恥ずかしそうに自己紹介した。

「アンナ、よろしくね。ここはあなたの新しい家になるわ」

 エマは、優しく微笑んだ。

「ありがとうございます、シスター・エマ」

 アンナは、緊張した面持ちで答えた。

(まだ幼いのに、悲しみを背負っているのね)

 エマは、アンナの瞳に宿る寂しげな影を見逃さなかった。

「アンナ、修道院は安らぎの場所よ。ゆっくり過ごしていきましょう」

 エマは、アンナの背中をそっと撫でた。


***


「シスター・エマ、お話があります」

 数日後、アンナがエマを訪ねてきた。

「どうしたの、アンナ?」

「私、母を亡くしたんです。それから、人生の意味が分からなくなってしまって……」

 アンナは、涙を浮かべて言った。

「そうだったのね。辛かったわね」

 エマは、アンナを優しく抱きしめた。

「シスター・エマ、私はどうしたらいいのでしょうか。生きていく意味が、見出せないんです」

 アンナは、エマに縋るように訴えた。

「アンナ、あなたの気持ち、よく分かるわ。私も、大切な人を亡くした経験があるの」

 エマは、アンナの手を握った。

「エマさんも?」

「ええ。でもね、その悲しみは、私を強くしてくれたの。人は、試練を乗り越えることで成長できるのよ」

 エマの言葉に、アンナは真剣に耳を傾けた。

(神様は、アンナにも試練を与えたのね。でも、きっと彼女は乗り越えられる)

 エマは、アンナの強さを信じていた。


***


「アンナ、悲しみに暮れている時間も必要よ。でも、いつまでもそこに留まってはいけない」

 エマは、アンナの目を見つめて言った。

「でも、前に進む勇気が……」

「大丈夫、あなたは一人じゃない。私たちがついているわ」

 エマは、力強く言った。

「シスター・エマ……」

「神様も、いつもあなたを見守っているの。あなたの悲しみも、喜びも、全て受け止めてくださっているわ」

 エマの言葉に、アンナの瞳に光が宿った。

「祈ることで、神様とつながることができるのね」

「ええ、祈りは魂を癒やしてくれるの。アンナ、一緒に祈りましょう」

 エマは、アンナの手を取り、祈りを捧げ始めた。

(神様、どうかアンナを導いてください。希望の光を、彼女に与えてください)

 エマの祈りは、アンナの心に届いた。


***


「シスター・エマ、私、前を向いて生きていきたいと思います」

 数日後、アンナがエマに告げた。

「アンナ、あなたなら必ずできるわ。あなたは強い子だもの」

 エマは、アンナの頬を優しく撫でた。

「シスター・エマのおかげです。エマさんの言葉に、勇気をもらいました」

 アンナは、はにかんだ笑顔を見せた。

「いいえ、私はきっかけを与えただけ。決心したのは、アンナ自身よ」

 エマは、アンナの成長を嬉しく思った。

「これからは、母の分まで精一杯生きていきます。そして、いつか私も人の役に立ちたいです」

 アンナの瞳は、希望に輝いていた。

「きっとそうなるわ。アンナにはその資質があるもの」

 エマは、アンナの将来を楽しみにしていた。

(神様は、アンナに素晴らしい可能性を与えてくださったのね)

 エマは、アンナという若き魂の輝きを感じていた。


***


「シスター・エマ、私にはまだ分からないことだらけです。でも、一生懸命学んでいきたいと思います」

 アンナが、真摯な眼差しでエマに語りかけた。

「ええ、学ぶ姿勢は大切よ。失敗を恐れずに、前に進んでいくことが大事なの」

 エマは、アンナの手を握りしめた。

「エマさんみたいに、私も人の支えになれる人になりたいです」

「アンナ、あなたはきっとなれるわ。今のアンナには、その芽が宿っているもの」

 エマは、アンナの頭を優しく撫でた。

「これからは、エマさんを手本にして、頑張ります」

 アンナは、力強く宣言した。

「アンナ、あなたの決意を嬉しく思うわ。でも、アンナはアンナの道を進むのよ」

 エマは、アンナの目を見つめて言った。

「自分の道、ですか……」

「ええ、アンナにしかない、かけがえのない人生があるのよ。それを、大切にしてほしいの」

 エマの言葉に、アンナは深く頷いた。

(神様、アンナという若き魂を、どうか導いてください)

 エマは、アンナの未来を心から願った。


***


 アンナとの出会いは、エマに新たな気づきをもたらした。

(私の役目は、まだ終わっていないのね)

 エマは、アンナを通して、自分の使命を再確認していた。

「シスター・エマ、今日も一緒にお祈りしましょう」

 アンナが、笑顔でエマを誘う。

「ええ、一緒に祈りましょう」

 エマもまた、微笑みを返した。

 二人の祈りは、静かに修道院に響き渡った。

(神様、アンナという希望の芽を、どうか大きな花に育ててください)

 エマの祈りは、アンナへの愛に満ちていた。

 アンナとの出会いは、エマに生きる喜びを与えてくれた。

 導く喜び、育てる喜び。

 エマは、修道女としての自分の役割に、改めて気づいたのだった。

「さあ、アンナ、今日も一日頑張りましょう」

「はい、シスター・エマ!」

 師弟の絆は、日に日に深まっていった。

 エマとアンナの物語は、新たな一ページを刻み始めたのだった。

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