第14章: カレンからの手紙 - 過去との向き合い

 ある日の午後、いつものようにエマが祈りを捧げていると、修道女の一人が手紙を持ってきた。

「シスター・エマ、あなた宛の手紙です」

 修道女は、エマに封筒を手渡した。

「私宛て? 珍しいわね。ありがとう」

 エマは、不思議そうに封筒を受け取った。

 差出人の名前を見て、エマは目を見開いた。

(カレン・スミス……あの、カレンから?)

 エマの脳裏に、高校時代の記憶がよみがえる。

「シスター・エマ、大丈夫ですか?」

 修道女が、エマの見たことのない表情の変化を見て心配そうに尋ねた。

「ええ、大丈夫よ。ちょっと昔を思い出しただけ」

 エマは、修道女に微笑んで見せた。

「そうですか。何かあったら、いつでも話を聞きますからね」

 修道女は、優しい言葉を残して立ち去った。

 エマは一人、静かに封を切った。

(カレン、あなたからの手紙なんて、何年ぶりかしら)


***


「エマへ。突然の手紙でごめんなさい。私、あなたに謝らなければならないことがあるの」

 カレンの手紙は、そんな書き出しから始まっていた。

「高校時代、私はあなたに告白して、あなたを困らせてしまった。あの時の私は、自分の気持ちに正直になることしか考えていなかった」

(カレン……)

 エマは、カレンの率直な言葉に胸を打たれた。

「でも、あれから時間が経ち、私は多くのことを学んだわ。自分の感情と向き合い、相手の気持ちを考えること。そして、愛にはいろいろな形があるということを」

(愛にはいろいろな形がある……そうね、私もそう思うわ)

 エマは、カレンの成長を感じ取ると同時に、自分のこれまでの歩みを振り返ってもいた。

「エマ、私はあなたに会いたいの。私の未熟さを謝りたい。そして、あなたとゆっくり話がしたいの」

 カレンの言葉は、真摯なものだった。

「もしあなたの都合が合うなら、ぜひ会ってほしい。返事を待っているわ。でも無理はしないでね。 カレンより」

 そう結ばれたカレンの手紙を、エマは何度も読み返した。

(カレン、あなたからの手紙を、嬉しく思うわ。でも、どうしたらいいのかしら……)


***


 エマは、カレンからの手紙を胸に、マリアの墓前に向かった。

「マリアさん、私、カレンから手紙をもらったんです」

 エマは、マリアの墓石に語りかけた。

「高校時代のこと、マリアさんにお話しした時のこと、覚えていますか? カレンは、私に告白したんです」

 エマは、当時の出来事を思い出していた。

「あの時の私は、愛の意味が分かりませんでした。カレンの気持ちを受け止められなかった」

 エマの瞳に、後悔の色が浮かぶ。

「でも今は違います。マリアさんから学び、修道院での日々を通して、私は愛の意味を知ったのです」

 エマは、マリアへの感謝の気持ちを込めて語った。

「神の愛、仲間への愛、家族への愛。そして、特別な人への愛。私は今、愛に囲まれているのだと実感しています」

 エマの表情は、穏やかで満ち足りたものだった。

「マリアさん、私はカレンに会うべきでしょうか? あなたなら、どうアドバイスしてくださいますか?」

 エマは、目を閉じて祈った。

 すると、優しい風が吹き、エマの頬を撫でた。

(マリアさん……これが、あなたの答えですね)

 エマは、微笑んだ。

「ありがとうございます、マリアさん。私、カレンに会うことにします」

 エマは、マリアの墓石に手を合わせ、立ち上がった。

(カレン、あなたとしっかり向き合うわ。過去も、今も、そして未来も)


***


「カレンへ。お手紙ありがとう。私も、あなたに話したいことがあります」

 エマは、カレンへの返信を書き始めた。

「私たちが高校生だった頃、私はあなたの気持ちに応えられませんでした。未熟な私は愛の意味が、分からなかったのです」

(でも、今は違う。私は、愛を知ったのだから)

「でも、今はあなたの気持ちが理解できます。愛には、様々な形があること。性別を超えた、魂の絆があることを」

 エマは、率直な思いを綴った。

「カレン、ぜひ会いましょう。過去のことを謝罪する必要はありません。むしろ、私の方こそ、あなたの気持ちを受け止められなかったことを謝りたい」

(過去は変えられない。でも、これからは違う。私たちは、新しい一歩を踏み出せる)

「会える日を、楽しみにしています。エマより」

 エマは、手紙を封筒に入れ、祈りを捧げた。

(神様、どうかお導きください。カレンとの再会が、私たちにとって意味あるものになりますように)


***


 エマは、カレンとの再会の日を心待ちにしていた。

(カレン、あなたはどんな人になったのかしら。私も、あなたにとって成長した姿を見せられるといいのだけれど)

 エマは、鏡の前で自分の姿を見つめた。

 シスターのベールをまとったエマは、昔とは違う、凛とした美しさを放っていた。

「シスター・エマ、お客様がいらっしゃいました」

 修道女の声に、エマは我に返った。

「ありがとう。今行くわ」

 エマは、深呼吸をして部屋を出た。

(さあ、行くわよ。過去と向き合う時が来たのね)

 エマは、神に祈りを捧げながら、カレンとの再会の場へと向かった。

 カレンとの再会は、エマにとって特別な意味を持つはずだ。

 過去と向き合い、未来へと歩を進める。

 エマの人生は、新たな一ページを刻もうとしていた。


***


 カレンからの手紙は、エマに大きな影響を与えた。

(私の過去は、愛で満ちていたわけではなかった。でも、今はすべてが愛で結ばれているのだと感じる)

 エマは、自分の心の変化を感じていた。

 カレンとの再会は、エマにとって、過去と向き合う機会となるだろう。

 そして、愛とは何かを、もう一度考える機会にもなる。

「神様、私にカレンとの再会を与えてくださったこと、感謝します」

 エマは、心の中で神に語りかけた。

「どうか、私たちの出会いが、お導きに満ちたものとなりますように」

 エマの祈りは、神に届いているはずだ。

(愛とは、形を変えても、常に私たちを見守り、導いてくれるもの。私はそう信じています)

 エマは、愛への信頼を胸に、新たな一歩を踏み出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る