第12章: 新たな使命 - 孤独な魂の救済

 歳月が流れ、エマは修道院の中心的存在となっていた。

 若い修道女たちにとって、エマは精神的な支えであり、時に母親のように、時に友人のように接していた。

「シスター・エマ、今日の祈りの言葉、とても心に響きました」

 ある日、若い修道女の一人が、エマに告げた。

「そう言ってもらえて嬉しいわ。でも、私はただ神の言葉を伝えているだけよ」

 エマは、穏やかに微笑んだ。

「いいえ、シスター・エマの言葉には、特別な力があるのです。私たち皆、シスターから多くのことを学ばせていただいています」

 修道女は、感謝の気持ちを伝えた。

「みんな、ありがとう。私も、皆と一緒に学ばせてもらっているのよ」

 エマは、修道女たちを優しく見つめた。

(私は、皆に支えられているのね。この絆に、心から感謝しなくては)

 エマの心は、温かい気持ちで満たされていた。


***


 祈りの時間が終わり、エマは一人、瞑想に耽っていた。

(神よ、私の人生の意味は何でしょう? 私にはまだ、成すべきことがあるのでしょうか?)

 エマは、静かに目を閉じ、神との対話を試みる。

 すると、かすかな風が吹き、エマの髪をなびかせた。

(これは、神からのお告げ?)

 エマは、風のそよぎに意味を感じた。

「シスター・エマ、お呼びでしょうか?」

 ふと我に返ると、そこには修道院長の姿があった。

「いいえ、ちょうどお話ししたいことがあったの」

 エマは立ち上がり、修道院長に向き合った。

「エマ、あなたには特別な才能があります。その才能を、もっと多くの人のために役立ててほしいのです」

 修道院長は、真剣な眼差しでエマを見つめた。

「どういうことでしょう?」

「孤独に苦しむ人々を、導いてあげてほしいのです。あなたは、神に選ばれた人なのですから」

 修道院長の言葉に、エマは息を呑んだ。

(私が、神に選ばれた?)


***


 エマは、自身の人生を振り返っていた。

(私は、天才であるがゆえの孤独に苦しんだ。でも、その孤独があったからこそ、今の私がある)

 エマは、孤独と向き合ってきた日々を思い出す。

(もし、私と同じように孤独に苦しむ人がいるなら、私は手を差し伸べたい)

 エマの心に、新たな決意が芽生え始めていた。

「神よ、私に、孤独な魂を救済する力をお与えください」

 エマは、深く祈りを捧げた。

 その時、温かな光がエマを包み込んだ。

(これは、神の御心……!)

 エマは、神の意思を感じ取った。

「私の使命は、孤独な魂を導き、救済することなのだわ」

 エマは、静かに呟いた。

 それは、神から与えられた、新たな人生の意味だった。


***


「シスター・エマ、私、人生に迷っているのです」

 ある日、一人の若い修道女が、エマに相談に来た。

「どういうことかしら?」

 エマは優しく微笑み、修道女を見つめた。

「私、自分の居場所が分からないのです。修道院に来たものの、本当にここでいいのか、自信が持てなくて……」

 修道女は、不安そうに打ち明けた。

「あなたの気持ち、よく分かるわ。私も昔、同じ悩みを抱えていたの」

 エマは、自身の経験を語り始めた。

「本当ですか? シスター・エマも?」

「ええ。でも、ここで私は多くのことを学んだの。孤独と向き合う術も、愛の意味も」

 エマの言葉に、修道女は真剣に耳を傾けた。

「あなたを、神はここに導いてくださったのよ。きっと、素晴らしい意味があるはずよ」

「シスター・エマ……」

 修道女の瞳に、希望の光が宿った。


***


 エマは、孤独に苦しむ人々と向き合う日々を送っていた。

「神よ、この人の孤独を癒やしてください」

 エマは、一人一人のために心を込めて祈った。

 そして、寄り添い、語り合う。

 自身の体験を伝え、孤独を乗り越える術を教えた。

「シスター・エマ、あなたと話せて本当に良かったわ。心が軽くなったの」

「シスター・エマのおかげで、生きる勇気をもらえました」

 そんな言葉が、エマに向けられるようになっていた。

(皆、私を必要としてくれている。これが、私の使命なのね)

 エマは、噛みしめるようにつぶやいた。

 孤独だった自分だからこそ、孤独に苦しむ人の痛みが分かる。

 その痛みを和らげ、新たな希望を与えること。

 それが、エマに課せられた仕事だった。


***


「エマ、あなたは本当に素晴らしい働きをしてくれています」

 ある日、修道院長がエマをねぎらった。

「皆さんに支えられているからこそ、できることなのです」

 エマは、謙虚に答えた。

「いいえ、あなたの才能は特別なものです。神に選ばれたのは、あなたなのですよ」

 修道院長は、エマの肩に手を置いた。

「私は、ただ神の御心に従っているだけ。皆を救うことが、私の喜びなのです」

 エマの瞳は、清らかな光を放っていた。

「これからも、私はこの道を歩んでいきます。孤独な魂を救済するために」

 エマは、力強く宣言した。

「あなたを、心から誇りに思います。神のご加護がありますように」

 修道院長は、エマを優しく抱きしめた。

(神よ、私をお導きくださり、ありがとうございます)

 エマは、心の中で深く感謝した。


***


 夜、一人祈りを捧げるエマ。

(神よ、私にはまだまだ至らないところがあります。どうか、私を導いてください)

 エマは、謙虚に頭を垂れた。

 すると、優しい光がエマを包み込んだ。

(エマよ、あなたは正しい道を歩んでいる。迷うことはない)

 神の声が、エマの心に響いた。

(この使命は、あなたにしか果たせない。あなたの才能は、孤独な魂を癒やすために与えられたのだ)

 温かな声に、エマの心は満たされていく。

(私の全てを、神のために捧げます。この身に宿った才能も、すべてはあなたからの贈り物)

 エマは、神への感謝の祈りを捧げた。

(孤独だった日々があったからこそ、今の私がある。すべては、神の御心のままに)

 エマは、静かに目を閉じた。

 神の愛に包まれながら、新たな決意を胸に刻んだ。


***


 エマの使命は、多くの人々を癒やし、救っていった。

 エマ自身も、その過程で大きく成長を遂げた。

 かつての孤独と苦しみがあったからこそ、今のエマがあるのだと、深く理解したのだ。

「神よ、私をこの世に遣わし、使命を与えてくださり、心より感謝いたします」

 エマは、満ち足りた表情で呟いた。

「これからも、あなたのお導きに従い、歩み続けてまいります」

 エマの祈りは、夜空に溶けていった。

(マリアさん、見ていてくださいね。私は、あなたが教えてくださった道を、まっすぐに歩いています)

 エマは、マリアへの思いを馳せた。

 今のエマがあるのは、マリアの愛があったからこそ。

 その愛を、今度はエマが他の人々に分け与えているのだ。

「明日も、神のために生きよう」

 エマは、そっと微笑んだ。

 満天の星空が、エマの決意を優しく照らし出していた。

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