第9章: 帰郷 - 新たな人生の始まり

 修道院の門をくぐったエマを、温かな歓迎の声が迎えた。

「エマ、おかえりなさい!」

「エマ、私たちはあなたを待っていました」

 修道女たちは、口々にエマを迎えた。

「皆さん、ただいま。あの、私……」

 エマは、涙を浮かべながら頭を下げた。

「エマ、あなたは私たちの大切な家族よ。どんな時も、ここはあなたの家なのよ」

 修道院長が、エマを優しく抱きしめた。

「ありがとうございます。私、本当に愚かでした。皆さんを心配させてしまって……」

 エマは、涙をこらえきれなかった。

「エマ、あなたは何も間違ったことはしていないわ。人生には、迷いの時期があるものよ」

 修道院長は、エマの背中をさすった。

(そうだわ。私には帰る場所があったのだわ……)

 エマの心は、安堵感で満たされていった。

 エマはルカによる福音書15章を思い起こしていた。

(私、放蕩息子ならぬ放蕩娘だったのね……)

 そう思いながらも、今は仲間たちの温かさにただ感謝するばかりだった。


***


「エマ、あなたの部屋はそのままにしてあるわ」

 修道女の一人が、エマを案内した。

「ありがとう。皆さん、本当に優しいのね」

 エマは、感謝の気持ちでいっぱいだった。

 部屋に入ると、そこには馴染みの光景が広がっていた。

 ベッド、机、本棚。すべてが、エマの思い出を呼び起こす。

「ただいま、マリアさん」

 エマは、部屋に飾られたマリアの写真に語りかけた。

「私、迷っていました。でも、あなたが教えてくれた愛の意味、少しずつ分かってきたの」

 エマは、マリアの写真に手を合わせた。

(マリアさん、あなたから学んだことを、これからの人生で実践していきます)

 エマは、心に誓った。


***


「エマ、お祈りの時間よ」

 修道女が、エマを呼びに来た。

「はい、今行きます」

 エマは、祈りの場所に向かった。

 祭壇の前で、修道女たちが一列に並んでいる。

 エマもその列に加わり、目を閉じて祈りを捧げた。

(神様、私を導いてください。マリアさんから学んだ愛を、人々に分け与える力を与えてください)

 エマの祈りは、以前にも増して真摯なものだった。

「神よ、お導きに感謝します」

 祈りを終えたエマは、清々しい表情を浮かべていた。

(私の人生は、神様が与えてくださったものなのね)


***


「エマ、少し話があるのだけれど」

 ある日、修道院長がエマを呼び出した。

「はい、何でしょうか?」

「実は、村の学校で数学の先生が足りないらしいの。あなたなら、その才能を発揮できるのではないかしら」

 修道院長の提案に、エマは驚いた。

「私に、数学を教えろというのですか?」

「ええ。あなたの才能は、神様から与えられたものよ。それを人のために役立てるのは、とても意義深いことだと思うの」

 修道院長は、エマの目を見つめた。

「でも、私はまだ未熟で……」

「エマ、あなたなら必ずできるわ。私はあなたを信じているの」

 修道院長の言葉に、エマの心は揺さぶられた。

(神様が、私に新たな使命を与えてくださったのかもしれない)


***


「皆さん、初めまして。私はシスター・エマと申します」

 村の学校で、エマは自己紹介をした。

「シスター、数学ってむずかしいんでしょう?」

 一人の男の子が、不安そうに尋ねる。

「ううん、そんなことないわ。数学は、とっても面白いのよ」

 エマは、優しく微笑んだ。

「みんなには、無限の可能性があるの。一緒に数学の楽しさを発見していきましょう」

 エマの言葉に、子供たちの表情が明るくなった。

「シスター・エマ、よろしくお願いします!」

 子供たちの歓声が、教室に響き渡る。

(マリアさん、見ていてください。私、子供たちに愛を分け与えていきます)

 エマは、心の中でマリアに語りかけた。


***


「シスター・エマ、今日の授業、とっても楽しかったです!」

 放課後、一人の女の子がエマに駆け寄ってきた。

「よかったわ、サラ。数学が好きになってくれたみたいね」

 エマは、サラの頭を優しく撫でた。

「シスター・エマのおかげです。あなたは、とっても優しい先生です」

 サラは、はにかんだ笑顔を見せた。

「サラ、あなたにはきっと大きな可能性があるわ。自分を信じて、頑張るのよ」

「はい、シスター・エマ。私、がんばります!」

 サラは、力強くうなずいた。

(一人一人の子供たちに、愛の種を蒔いていきたい)

 エマは、教師としての喜びを感じていた。


***


「エマ、最近は学校での活動が忙しいようね」

 ある日、修道院長がエマに声をかけた。

「はい、でも充実した毎日を送っています」

 エマは、生き生きとした表情で答えた。

「あなたは輝いているわ。まるで、新しい人生を歩み始めたようだもの」

 修道院長は、嬉しそうに微笑んだ。

「修道院長、私は皆さんのおかげで新しい人生を見つけることができました」

 エマは、感謝の気持ちを込めて言った。

「いいえ、それはあなた自身の力よ。私たちはただ、あなたを信じていただけです」

 修道院長は、エマの手を握りしめた。

(皆さんの愛に支えられて、私は前を向いて歩き続けることができる)

 エマは、心の中で修道女たちへの感謝を捧げた。


***


「神様、今日も一日、ありがとうございました」

 エマは、一日の終わりに祈りを捧げていた。

「私に新しい人生を与えてくださり、心より感謝いたします」

 エマの祈りは、真摯で熱いものだった。

「これからも、人々に愛を分け与える人生を歩んでいきます」

 エマは、神への誓いを立てた。

「孤独の中にも、愛の種は芽吹くのだと信じています」

 エマの瞳は、希望に満ちていた。

(マリアさん、あなたが教えてくれた愛の意味、しっかりと受け継いでいきます)

 エマは、マリアへの思いを胸に刻んだ。


***


 修道院に戻ってきたエマは、新たな人生を歩み始めていた。

 修道女としての務めを果たしながら、村の学校で子供たちに数学を教える。

 エマの人生は、愛と奉仕に満ちたものになっていった。

「シスター・エマ、今日もありがとうございました!」

 子供たちの笑顔が、エマの心を温かくする。

「ええ、また明日ね。みんな、がんばったわよ」

 エマは、子供たちに手を振った。

(神様、こんなに幸せな毎日を、ありがとうございます)

 エマは、感謝の祈りを捧げた。


***


「ララ、エマからまた手紙が来たわよ」

 ギルバートが、嬉しそうに言った。

「ああ、エマは幸せそうね。学校の教師としても、すっかり馴染んでいるようだわ」

 ララは、娘の幸せを心から喜んだ。

「ああ、エマは自分の居場所を見つけたようだ。神に感謝しなくては」

 ギルバートは、妻の手を握りしめた。

「ええ、エマの人生は、神様が導いてくださっているのよ」

 ララは、穏やかな表情で頷いた。

(エマ、あなたの幸せを、心から祈っているわ)

 両親は、娘の成長を見守っていた。


***


 エマの帰郷は、新たな人生の始まりだった。

 修道女としての生活、学校での教師としての活動。

 エマは、愛と奉仕の人生を歩み始めた。

 かつての孤独は、新しい絆に変わっていく。

 エマは、一人一人との出会いを大切にしていった。

「神様、私の人生を導いてくださり、ありがとうございます」

 エマは、毎日の祈りを欠かさなかった。

「これからも、愛の種を蒔き続けていきます」

 エマの決意は、揺るぎないものだった。

 帰郷したエマは、新しい人生を力強く歩んでいく。

 それは、神の愛に満ちた、希望に満ちた人生だった。

「マリアさん、見守っていてくださいね」

 エマは、空を仰ぎ見た。

 そこには、マリアの微笑む姿がまた見えた気がした。

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