第6章: 祈りと奉仕の日々

 エマは、母の反対を押し切り、マリアの修道院で修行の日々を送ることになった。

「エマ、ここが今日からあなたの新しい家よ」

 マリアが、エマを修道院の中に案内した。

「ありがとうございます、マリアさん。私はここで、静かに自分を見つめ直したいと思います」

 エマは、静かに微笑んだ。

「そうね。ここは、あなたの心を癒やす場所になるはずよ」

 マリアもまた、優しい笑顔を浮かべた。

(ここなら、私の心は安らげるはず)

 エマは、そう確信していた。


***


 修道院の生活は、厳しいものだった。

 早朝の祈りに始まり、一日は祈りと奉仕の連続だ。

「エマ、疲れたでしょう?」

 ある日の夕食後、マリアがエマに声をかけた。

「いいえ、マリアさん。これが修道女の務めですから」

 エマは、気丈に微笑んで答えた。

「あなたは強いのね。神様も、あなたの献身を喜んでいるはずよ」

 マリアは、エマの頬に手を添えた。

「マリアさん、私はここで多くのことを学ばせていただいています。感謝の気持ちでいっぱいです」

 エマの瞳は、輝いていた。

(神様、私に力をお与えください)

 エマは、心の中で祈った。


***


 修道院の生活に慣れてきたある日、エマはマリアに呼び出された。

「エマ、ちょっといいかしら?」

 マリアが、真剣な表情で言った。

「はい、マリアさん。何でしょうか?」

「実は、修道院の会計に問題があるの。あなたの助けが必要だと思うわ」

 マリアは、困ったように眉をひそめた。

「会計ですか? 私にできることがあれば、喜んでお手伝いします」

 エマは、即座に答えた。

「ありがとう、エマ。あなたの頭脳なら、きっとすぐに解決できるはずよ」

 マリアは、安堵の表情を浮かべた。

(神様が、私に与えてくださった才能。ここでそれを役立てることができるのね)

 エマは、感謝の気持ちでいっぱいだった。


***


 エマは、修道院の会計問題に取り組んだ。

 彼女の鋭い洞察力と、数学的才能が、問題をあっという間に解決した。

「エマ、本当にありがとう。あなたの力がなければ、修道院は大変なことになっていたわ」

 マリアが、エマの手を握りしめた。

「いいえ、マリアさん。私は神様に与えられた才能を、お返ししただけです」

 エマは、謙虚に答えた。

「あなたは、やはり特別な存在よ。神様に選ばれた人なのね」

 マリアの言葉に、エマは驚いた。

(私が、特別な存在だなんて……)

 エマはまだ、自分への評価が定まらずにいた。


***


「マリアさん、私は自分の才能に戸惑っているんです」

 ある日、エマはマリアに打ち明けた。

「どういうことかしら?」

「私の頭の回転の速さは、時に周りの人を困らせてしまうんです。学校でも、そのせいで友達を失くしたことがあるんです」

 エマは、寂しそうに言った。

「エマ、あなたの才能は、神様からの贈り物よ。それを恥じる必要はないわ」

「でも……」

「あなたは、その才能を人のために使うべきなの。この修道院で、あなたの力が必要とされているように」

 マリアの言葉に、エマは目を見開いた。

(そうか。私の才能は、人の役に立つためにあるんだわ)

 エマは、自分の心に決意が芽生えるのを感じた。


***


 エマは、修道院での日々に、充実感を覚えるようになっていた。

 祈りと奉仕の毎日。それは、エマの心を穏やかにし、豊かにした。

「マリアさん、私、ここでの生活が心地いいんです」

 ある日、エマはマリアに告白した。

「それは良かったわ、エマ。あなたの心が安らいでいるようで」

 マリアは、嬉しそうに微笑んだ。

「外の世界では、私の才能は時に疎まれることがありました。でもここでは、必要とされている気がするんです」

「ええ、もちろん、神様もあなたを必要としてくださっているのよ」

 マリアの言葉に、エマは幸せを感じた。

(ここが、私の本当の居場所なのかもしれない)

 エマは、そう感じずにはいられなかった。


***


 エマは、修道院で多くのことを学んだ。

 祈りの大切さ、奉仕の喜び、聖書の学び、謙虚の美徳。

 マリアは、エマにそれらすべてを教えてくれた。

「マリアさん、あなたから学ばせていただいたことは、一生の宝物です」

 ある日、エマはマリアに感謝の言葉を伝えた。

「エマ、あなたはすばらしい生徒だったわ。あなたとの出会いは、神様が与えてくださった恵みだと思うの」

 マリアは、愛情たっぷりの眼差しでエマを見つめた。

「これからも、二人で神様のご意思に従って生きていきましょうね」

「はい、マリアさん。私、あなたと共に歩んでいきたいです」

 エマとマリアは、固く手を握り合った。

(神様、マリアさんを通して、たくさんのことを学ばせてくださり、ありがとうございます)

 エマは、心の中で神に感謝した。


***


 穏やかな日々は、5年の歳月を重ねた。

 エマは、すっかり立派な修道女になっていた。

「シスター・エマ、あなたはもう一人前の修道女よ」

 ある日、マリアがエマをそう呼んだ。

「マリアさん、それは、あなたのおかげです」

 エマは、感謝の気持ちでいっぱいだった。

「いいえ、エマ。あなた自身の努力の賜物よ。神様も、あなたを誇りに思っているはずよ」

 マリアは、エマの頬に手を添えた。

「これからも、この修道院のために、尽くしていきたいと思います」

「ええ、あなたはここになくてはならない存在よ。これからもよろしくね、シスター・エマ」

 マリアとエマは、微笑みを交わした。

(ここが、私の生涯をかけるべき場所なのね)

 エマは、確信に満ちていた。

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