第5章: 新たな導き手との出会い

 ひきこもり続ける娘のを心配したララとギルバートは、エマを修道院に連れて行くことにした。

「エマ、しばらくここで過ごしてみるといいわ。心が安らぐと思うの」

 ララが優しくエマに語りかける。

「でも、私はそんな気分じゃ……」

 エマは初めて両親に対して否定的にそうに呟いた。

「強制はしないわ。ただ、ここで自分と向き合う時間を持つのも悪くないと思うの」

 ギルバートが娘の背中を押した。

「……わかったわ。行くだけで良いなら行ってみる……」

 エマは、小さくうなずいた。


***


 古びた修道院の門をくぐると、そこには別世界が広がっていた。

 鳥のさえずりと、祈りの言葉が聞こえてくる。

「ようこそ、エマ。ここがあなたの心の安らぎの場所となることを願っています」

 出迎えたのは、ベテランの修道女、マリアだった。

「マリアさん、よろしくお願いします」

 エマは、礼儀正しくあいさつした。

「こちらこそ。さぁ、中へ入りましょう」

 マリアに導かれ、エマは修道院の中へと足を踏み入れた。


***


「エマ、ここが今日からしばらくあなたのお部屋よ」

 マリアが、質素な部屋の扉を開けた。

「ありがとうございます」

 エマは、部屋に入ると、ベッドに腰掛けた。

「何か話したいことがあれば、いつでも来てちょうだい」

 マリアは、エマの目を優しく見つめた。

「はい、でも……」

 エマは、言葉を濁した。

(この人には、私の気持ちを、理解してもらえるかしら)

 不安が、エマの心をよぎる。

「エマ、神様はあなたの全てを見守っているのよ。ここでは、心を開いて」

 マリアの言葉に、エマは戸惑った。


***


 数日後、エマはマリアの部屋を訪ねた。

「マリアさん、お話したいことがあります」

 エマは、覚悟を決めたように言った。

「どうぞ、エマ。何でも話してちょうだい」

 マリアは、やさしく微笑んだ。

「私は、自分が普通の人間ではないような気がするんです。そう、まるで感情が欠落しているような……」

 エマは、言葉を選びながら話し始めた。

「なぜそう思うの?」

「私は、愛の意味が分からないんです。両親の愛も、恋愛感情も……。根本的に理解できないんです。パパとママが私を好きなのはわかります、でも……」

 エマの目に、涙が浮かんだ。

「エマ、愛にも様々な形があるのよ。すぐに理解できなくても、いいの」

 マリアは、エマの手を握った。


***


「でも、私は周りの人とうまくコミュニケーションがとれないんです。みんなと違う世界に生きているようで……」

 エマは、涙を流しながら打ち明けた。

「あなたには、特別な才能があるのね。だからこそ、孤独を感じてしまうのかもしれない」

 マリアは、エマの頭を撫でた。

「私は、どうしたらいいのでしょうか」

「エマ、あなたはあなたのままでいいの。神様は、あなたの全てを愛しているわ」

「神様が、ですか?」

「そう。神様はあなたの孤独も、苦しみも、全て理解しているの」

 マリアの言葉に、エマの心にわずかに光が差した。

(私の全てを受け入れてくれる存在が……いるっていうの?)

 エマを見つめるマリアの瞳は真実だった。

「本当にこんな私でも?」

「もちろんですよ。神様はすべて計画をあって、人々を世に送り出しているのです。無駄な人はひとりもいません。みなそれぞれの使命(ミッション)を持ってこの地上に送られてきたのです」

 マリアは優しくエマに語り掛けた。


***


「ではマリアさん、私はこれからどうしたらいいのでしょう?」

 エマが、不安そうに尋ねた。

「エマ、あなたは自分の道を進むべきよ。周りに流されてはいけない」

 マリアは、力強く言った。

「自分の道……」

「そう。あなたにしかできないことがあるはずよ。あなたの才能を、社会のために活かすの」

「でも、私にはまだ何ができるのか……」

「今はまだ分からなくていい。ゆっくり、自分と向き合う時間を持つことが大切よ」

 マリアの言葉を、エマは心に刻んだ。

(自分と向き合う……時間……)


***


 エマは、マリアとの対話を重ねるうちに、心が軽くなっていくのを感じた。

(マリアさんは、私の全てを受け入れてくれる……こんな私のすべてを……)

 エマは、マリアに心を開いていった。

 孤独や苦しみ、両親との溝、将来への不安。

 エマは、全てをマリアに打ち明けた。

「エマ、あなたはあなたのままでいいのよ。神様は、あなたを特別な存在として創ってくださったのだから」

 マリアは、エマを抱きしめながら言った。

「マリアさん……」

 エマは、マリアの胸の中で泣いた。

 温かな涙が、エマの心を洗っていく。

(私は、一人じゃなかったんだわ)


***


「マリアさん、私も修道女になりたいと思います」

 ある日、唐突にエマが切り出した。

「エマ、それはあなたの心からの望みなの?」

 マリアが、真剣な眼差しで尋ねる。

「はい。ここで過ごすうちに、私の心は安らぎを得られました。私はもっと神様の愛を感じたいのです」

 エマの瞳は、輝いていた。

「エマ、あなたの決意を尊重するわ。でも、修道女の道は厳しいのよ」

「覚悟はできています。私なりの方法で、神様に仕えたいのです」

 エマの言葉に、マリアは頷いた。

「エマ、あなたの決意を神様は喜んでくださるわ。共にお祈りしましょう」

 マリアとエマは、手を取り合って祈りを捧げた。


***


「エマ、修道女になるって本当なの?」

 ララが、驚いた様子で尋ねた。

「ええ、ママ。私、ここでマリアさんから多くのことを学んだの。自分の人生を見つめ直せたわ」

 エマは、穏やかな表情で答えた。

「でも、あなたにはまだ可能性が……」

「ママ、これが私の選択よ。私なりの方法で、人の役に立ちたいの」

 エマの決意に、ララは言葉を失った。

「エマ、お前の決意は本物のようだね。いいよ、パパは応援するよ」

 ギルバートが、娘の背中を押した。

「ありがとう、パパ、ママ。私、これからは修道院で生きていくわ」

 エマは、両親を抱きしめた。


***


「神様、私をこの修道院に導いてくださり、ありがとうございます」

 エマは、祭壇の前で祈りを捧げていた。

「マリアさんを通して、あなたは私に新たな生きる意味を与えてくださいました」

 エマの祈りは、静かに響いた。

「私の孤独と向き合い、私なりの人生を歩む勇気をお与えください」

 エマは、神に希望を託した。

(これから私は、修道女として生きていく……!)

 エマの心に、新たな決意が芽生えていた。


***


「マリアさん、私の新しい人生を導いてくれてありがとう」

 エマが、マリアに言った。

「エマ、導いてくださったのは私ではなく神様よ。あなたはきっとこれから、素晴らしい経験をします」

 マリアは、優しく微笑んだ。

「はい。マリアさんから学んだことを胸に、歩み続けます」

「エマ、神様はいつもあなたを見守っているわ。あなたの孤独も、苦しみも、全て意味があるのよ」

「マリアさん……」

 エマは、マリアに感謝の想いを伝えた。

 修道院での新たな人生が、エマを待っていた。

 マリアとの出会いは、エマの人生の大きな転換点となったのだった。


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