第4章: 運命の出会い、そして試練

 高校に進学したエマは、新しい環境に胸を躍らせていた。

(ここなら、きっと私を理解してくれる人に出会えるはず)

 そんな期待を胸に、エマは高校生活をスタートさせた。

「君が噂の天才少女、エマ・ワトソンさんだね」

 クラスメイトの一人が、エマに話しかけてきた。

「私はカレン・スミス。よろしくね」

 カレンは、エマと同じく知的な雰囲気を漂わせる美少女だった。

 そしてエマと同じく小さい頃から天才少女の名を欲しいままにしていた。

「カレンさんこそ、よろしく。でも天才少女なんて大げさだわ」

 エマは、謙遜しながら微笑んだ。

「遠慮することないわ。あなたの噂は有名よ。一緒に勉強できたら嬉しいわ」

 カレンの言葉に、エマの心は躍った。

(やっと、私を理解してくれる人に出会えたのかもしれない!)


***


「ねえエマ、この問題はどう解くのかしら?」

 放課後、カレンがエマに数学の問題集を差し出した。

「うん、これはこうやって解くのよ」

 エマが手際よく解答を導いていく。

「さすが、エマね。あなたの頭脳は本当に素晴らしいわ」

 カレンが感嘆の声を上げる。

「私も負けてられないわ。一緒に頑張りましょう」

 二人は、笑顔で握手を交わした。


***


「ねえ、プラトンの『国家』について、どう思う?」

 哲学の授業後、カレンがエマに尋ねた。

「理想国家の提唱は興味深いけど、現実には難しいと思うわ。人間の感情を無視しすぎているもの」

「そうね。でも、理性で社会を導くという発想は革新的だと思わない?」

「ええ、プラトンの洞察力には感服するわ。でも、私は人間の感情も大切にしたいの」

 そう言いながらもエマは、自分には他の人のように普通に感情は理解できないんだけど……と心の中で呟いた。

「なるほど。エマの意見、もっと聞かせて」

 二人は、放課後まで白熱した議論を交わした。


***


「ねえエマ、私の家で一緒に勉強しない?」

 ある日、カレンがエマを誘った。

「喜んで。カレンのおうちなら、集中できそうだわ」

 エマは、カレンの申し出を快諾した。

 カレンの自宅は、洗練された趣味の良い空間だった。

「まあ、素敵なお宅ね」

「ありがとう。両親はいつも忙しくてね。だから、インテリアは私の趣味なの」

 カレンは、少し寂しそうに微笑んだ。

「そう……カレンも、寂しい思いをしているのね……」

 エマは、カレンに共感を覚えた。


***


「エマ、あなたは恋愛には興味ないの?」

 勉強の合間に、カレンが唐突に尋ねた。

「えっ? そうね……正直、あまり興味ないかも」

 エマは、少し戸惑いながら答える。

 カレンはエマの答えを聞いたあと、しばらく黙り込んでしまう。

 しかし意を決したような真剣な表情で口をひらいた。

「あのね、私は、同性が好きなの。これまで女の子を愛することに、罪悪感を感じたことはないわ」

 カレンの突然の告白に、エマは驚きを隠せなかった。

「それは……素敵だと思うわ。愛に性別は関係ないもの」

 エマは、動揺しながらも微笑んだ。

「エマ、私……あなたのことが好きなの」

 カレンは、真剣な眼差しでエマを見つめた。

「え……?」

 エマの頭の中は一瞬にして真っ白になった。


***


「エマ、私はあなたに惹かれているの。初めて会った時から」

 カレンは、エマの手を握りしめた。

「でも、私たちは友達じゃない……」

「友情も愛も、本質は同じだと思うの。私はあなたを、特別に思っているのよ」

 カレンは、エマに顔を近づけてくる。

「ごめんなさい、カレン。私にはまだ、愛の意味が……」

 エマは、カレンの頬に手を添えた。

 その瞬間、カレンはエマの唇を奪った。

「っ……!」

 突然のキスに、エマの体が硬直する。

(どうして……!?)

 エマの頭の中は、パニックに陥っていた。


***


「ごめんなさい、エマ。私、あの……」

 我に返ったカレンが、エマに謝罪する。

「私、帰るわ」

 エマは、泣きそうな顔でカレンの家を飛び出した。

(愛……恋愛……私には理解できない……!)

 エマは、胸の動悸を抑えられずにいた。

 カレンへの気持ちは、友情なのか、それとも……。

 エマには、自分の感情が分からなかった。

(私って、本当に人間らしい感情が欠落しているのかも……)

 エマは、自分を責めずにはいられなかった。


***


「エマ、カレンから電話があったわよ」

 ララが、エマを呼び止めた。

「出たくないの」

「どうしたの? カレンとケンカでもしたの?」

「違うの。ただ……私には、愛が理解できないの」

 エマは、涙を浮かべて告白した。

「エマ……」

 ララは、娘を優しく抱きしめる。

「無理に理解しなくていいのよ。エマには、エマの人生があるんだから」

「でも、私、感情が欠落しているみたい。人間らしくないのかも……」

「エマ、あなたは十分に人間らしいわ。時間をかけて、自分の気持ちと向き合えばいいの」

 ララの言葉に、エマは小さくうなずいた。


***


「エマへ。あの日のことは、本当にごめんなさい。私の感情に任せて、あなたを困らせてしまった。でも、私の気持ちに嘘はないの。あなたを、心から愛しているわ。もしあなたの気持ちが変わることがあれば、いつでも私に教えて。私はいつまでも、あなたを待っています。カレンより」

 カレンからの手紙を読み終えたエマは、胸が痛んだ。

(ごめんなさい、カレン。私にはまだ、愛を受け入れる勇気がないの)

 そうしてエマはカレンに返事を書こうとしたが、それはどうしてもできなかった。

 書きかけの手紙を破いて捨てると、エマは無気力にベッドに倒れ込んだ。

 それからエマは家にひきこもるようになった。

 学校に行って、カレンと逢うのは、怖かった。


***


 カレンとの出来事は、エマに大きな影響を与えた。

 愛という感情を、理解できない自分に苛立ちを覚えた。

(私は、人間らしい感情を持っていないのかもしれない)

 そんな焦りが、エマを蝕んでいく。


「エマ、大丈夫かしら……。あれから塞ぎこんで部屋からまったく出てこなくなってしまったわ……」

 ララは心配そうに呟いた。

「そうだね……エマに何があったのかはエマにしかわからないけど、僕たちは彼女のサポートしていくしかないよ」

「ええ、そうね。そうだわね。それはわかってはいるんだけど……」

 なおをも心配そうに2階の娘の部屋を見上げるララを、ギルバートは優しく抱きしめた。


***


「神様、私は間違った人間なのでしょうか」

 エマは、一人教会で祈りを捧げていた。

「愛を感じられない私は、欠陥品なのでしょうか」

 神に問いかけるエマ。

「神様、私に愛を教えてください。人を愛する方法を、教えてください」

 エマは、そう祈り続けた。

 愛への憧れと、愛を知らない自分への苛立ち。

 エマの心は、どんよりと曇っていた。

「私は、私らしく生きるしかないのね」

 エマは、ため息をついた。

 天才であることの孤独と、愛を知らないことの寂しさ。

 エマは、二つの孤独を抱えて、生きていくしかないのだった。


***


「愛とは何なのだろう」

 エマは、一人哲学書を読みふけっていた。

「愛は、人間の最も崇高な感情の一つだと言われている。しかし、愛とは一体何なのだろうか。理性では説明できない、不可解な感情。私にはまだ、その本質が掴めない」

 エマは、ノートに思索を書き綴る。

「いつの日か、私も愛を理解できるだろうか。理性の果てに、愛は存在するのだろうか。それともまったく別の地平にあるのだろうか」

 エマは、深い溜息をついた。

「カレン、あなたの気持ちに応えられなくてごめんなさい。でも、私は私の道を歩まなければいけないの」

 エマは、そう心の中でつぶやいた。

 エマの孤独な魂は、愛を求めて彷徨っていた。

 果たして、エマは愛を見つけることができるのだろうか。

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